「若者」視点から実感するグローバリズム
――若者研究は日本だけにとどまらず、中国にも広がっています。
原田曜平氏: ある時期から、中国の若者研究もするようになりました。最初はインターネットが共通項でしたが、今ではみんな、スタバに行ってMacBook AirやiPhoneを開いています。LINEは中国で禁止されましたが、WeChatという似たサービスがあります。中国で若い子を見ていると、やっていることは日本の若者と同じでした。雑誌にしても両方とも『Ray』や『ViVi』を読んでいます。上海にある若者研の学生の組織に定期的に行って、一緒に商品開発をしていて、WeChatで英語でやり取りしていますが、日本と北京、上海はほぼ差を感じませんね。
大企業では上海、北京や東京といったエリアごとの予算や裁量権があったりすると思うのですが、「若者」という切り口で見ると、全く違ったモノが見えてきます。日本も中国も一緒だから同一市場と考えましょうと。「グローバルって、こういうことなのだ」と思いましたね。
――東南アジア全域でも研究されているそうですね。
原田曜平氏: 自動車メーカーさんと中国向けの車を一緒に作る仕事をしていて、「インドネシアも一緒に見ないか」と言われ、それからインドネシアをはじめ、東南アジア全域でやっています。インドネシアに言及すると、経済的に日本と格差があるし、気候は熱帯に属します。イスラム圏なので文化や習慣も違う。でも若い子はスタバにも行っているし、LINEがものすごく普及して、そういった部分での差はないと感じています。
若者は時代を映す鏡
――若者研究を通して、どのような世の中が見えていますか。
原田曜平氏: 少子高齢化は大きな問題の1つだと思います。若い世代にスポットが当たらなさすぎる国になっているので、毎週「ZIP!」で若者のトレンドを紹介しています。でも社会学の世界では、若者の車離れ、海外離れ、などで止まってしまっていますが、よく見れば新しいニーズがあって、レッドブルのように売れている商品もたくさんあるのです。バブルの頃ほど若者人口も多くはないし、消費意欲も旺盛ではないようにも思いますが、今のノールックな状態は企業としてはもったいないと思います。
――人口ボリュームの多い団塊の世代だけがターゲットなのは惜しい、と。
原田曜平氏: 人口の多い団塊の世代の時代はこれからですが、その先はいずれ若者・子どもが中心の社会になるのだから、先行投資も含めて、今の時点でしっかり見れば若者をつかむことができるはずです。人口ボリューム上、仕方がないとは思いますが、未来のことを考え、現状を改善するためにも、若い人を見るべきなのです。若者研究は未来研究に近いと僕は感じています。若い人は経験値がなく、正直で素直です。景気が悪いという臭いがしてきたら、最初に財布のひもを締めるのは若者です。
「若者が車を買わなくなった」と言われていますが、若い人はそもそもお金がないし、データを見ると50、60代の方の購買も落ち込みが激しくなっています。もちろん、想定外の未来も起こり得ますが、速い時代の変化の影響を受ける若い人の方が、自然と人間が目指す方向へ先に立っているのです。若い子を見るということは、実は未来の日本を知ることに近いのです。
若者は未来からきた生活者
――若者研究は、どのように展開されていくのでしょう。
原田曜平氏: 若者は時代を映す鏡です。いつの時代の若者も、幸せになりたいと思っていても、具体的に道が見えていないだけ。基本的に若者は健全で何色にも染まっていないので、一番幸せに近づきやすい道の方にフラフラと向かってしまうのかもしれません。若者にこうしてほしい、こうなってほしいという特定の想いはありませんが、上の世代には、若者の特徴や、向かう方向を学んで商品開発に生かしてほしいと思います。
――このほど、宝島社より新刊『女子力男子 ~女子力を身につけた男子が新しい市場を創り出す』も出されました。
原田曜平氏: 「さとり世代」、「マイルドヤンキー」など、色んな言葉で若者を表してきましたが、最新キーワードは『女子力男子』です。料理、美容やダイエットに関心を持ち流行にも敏感な“彼ら”に注目して、実態調査をもとに解説しています。若者は未来からきた生活者で、自分たちの一歩先を行っています。今回の本も、単なる若者評に終わるものではなく、世界で広がる『女子力男子』市場の魅力と、彼らに響く新商品サービスのアイデアの芽、また座談会も収録するなど、「いまどきの若者が何を考えているのか」丸わかりになりビジネスにも役立つ内容に仕上がりました。僕自身もこれからは、「若者研究」からより「未来研究」に焦点をあてて、社会に還元したいと思っています。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 原田曜平 』