遠田和子

Profile

青山学院大学、文学部英米文学学科卒業。在学中にカリフォルニアのパシフィック大学に留学し、卒業後、キヤノンにて翻訳業務従事する。数年後、フリーランスの日英翻訳者として独立。2012年 持論である「明快な英語」普及のため、WordSmyth英語ラボを立上げる。現在は翻訳業の傍ら、翻訳学校サン・フレア アカデミーの講師および企業研修講師(英語プレゼン)を務める。英語学習関連の本や雑誌CNN English Express記事の執筆、講演活動も行っている。また、日本英語交流連盟の認定講師として、即興スタイルの英語ディベートに取り組み、トーストマスターズ会員としてパブリック・スピーキング能力を鍛えている。趣味は読書・映画鑑賞。

Book Information

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――普段の電子書籍との関わりからお伺いしたいと思います。

遠田和子氏: 今身近に持っているのが、これ、Kindleの最新版です。Kindle Touchが日本から注文できるようになった時点(2012年2月)での最新版です。Amazon.comで注文受付が始まり、すぐ買いました。これが私の2台目のKindleです。初代Kindleはキーボード付きですが、これはタッチパネルです。いつもバッグの中に入れています。本は重たいでしょう。でもKindleだったら軽いですから。
それで今日は、いろいろなことができることをお見せしたいと思いまして(笑)。



例えばこれが、いま持ち歩いて読んでいる本です。

――ジャンルは小説などですか。


遠田和子氏: 私はノンフィクションとか小説が好きです。最近Kindleで読んだノンフィクションはWalter Isaacsonの『Steve Jobs』。Kindleはオーディオ機能が付いていますが、結構、音声が良くて。(英語を話す男性の音声を再生しながら)これ機械音声です。人ではなくて、機械でここまでの聞きやすさです!ナビとか券売機の音声とは違うでしょう?凄く自然ですよね。

――声の種類もありますか。


遠田和子氏: はい、女性の声に変えられ、速さも調整できます。これはデフォルトの速さですけど、ゆっくりも早くもできて、音声に連動してページも順々に変わっていくんです。電子化の大きなメリットの一つは音声化です。

――これによって、もちろん英語学習にも役立つし、ハンディキャップをお持ちの方でも本を読むことが可能になりますよね。


遠田和子氏: そうです。非常にアクセシビリティが高まります。画面で字を何倍にも大きくできるのはご存知ですね?KindleはE-inkですので目が疲れません。iPadで読むと、ちょっと辛いですけど。

それで電子書籍の何が良いかというと、Amazonの場合、デバイスに依存せずに本が読めることです。私はKindle Touch以外に、閲覧ソフトのKindleアプリをiPhone、iPad、 MacノートブックとWindows PCに入れています。そうすると、例えばKindle Touchを忘れて外出しても、さっきまで読んでいた本をスマホで開けると読みかけのページが出ます。読んでいる箇所がデバイス間で同期されるからです。そういう所が、電子書籍はすごく便利です。


電子書籍に関する、キーワードは「いつでもどこでも」ですよ。よく人に電子書籍を薦めるとき、ドラえもんの「どこでもドアだよ」と言います。例えば去年の夏、ケータイも圏外の山の中に10日間くらい滞在しました。周りは木ばかりで、本屋なんかもちろん1軒もないです。でも車で10分位の所にWi-Fiが使える場所がありました。毎日パソコン持参で、いそいそとそこに通っていました。ある日読む本がなくなったので、このWiFiスポットでインターネット接続し、Amazon.comで本を買ってダウンロードしました。だからどこでも本屋さんなの。今この瞬間も、この場で電子書籍を買えますよ。この「いつでもどこでも」感はすごいです。はじめて電子書籍をダウンロードしたとき、素晴らしい世界がパーッと開けた感じがしました。

――こういった最先端のものに触れるのはどういうきっかけからだったのですか。


遠田和子氏: 私は日英翻訳者です。翻訳者というのは仕事柄、最先端の技術をいつもウォッチングしています。通常は文学を翻訳しているわけではなくて、実務分野の仕事が多いです。そうすると翻訳する作業が、知らないことを調査し、新しいことを知るプロセスと重なります。『Google 英文ライティング』を書いたのは、翻訳で英文を書くにあたって、自分の英語を検証するためにいつもGoogleを使っているからです。

――翻訳をされている方では、ITなどに詳しいんですか。


遠田和子氏: 翻訳者でITに詳しい人、多いです。ITに詳しくないと生き残れなくなってきています。大昔のイメージ、紙とペンと辞書で…そんな翻訳者はもういません。

ITの英語への活用という意味で、ウェブ・リソースをリーディングに生かすことも本で書きました。こんなにネットワークが広がって英語学習している人が大勢いるけれど、どれだけの人がウェブを十分に活用しているでしょうか。「英語が上手になるにはどうしたらいいですか?」って聞かれることがあります。あと「英語で何を読んだらいいですか?」「Timeとかですか、Japan Timesですか?」(笑)そんな質問には、「それ、止めた方がいいです」と答えます(笑)。英語を学ぶ目的のためにTimeやNewsweekを読むのは、内容に興味がなければ難しいです。自分が好きな物から入っていくべきです。

日本の英語教育は、英語そのものが目的化していると思っています。英語学習者はよく、「TOEICで○○点を目指す」といいます。でも「TOEICで何点取って、それで何をしたいのか」という最終の目的が曖昧です。英語はただの道具であって、自分の真の目的を達成するために英語を使えば、英語自体も磨かれる、というのが私の考えです。「何を読んだらいいですか?」と聞く人には、「あなたは何が好きですか」って聞き返すわけです。サッカーが好きなら、「サッカーについて英語で書かれたものを読めば?」と。

――全ての原動力は好奇心ということでしょうか。


遠田和子氏: そう。「好きから出発」を主題に『eリーディング英語学習法』を書いたのです。自分の興味に沿ってネット上のリソースを探せば、いくらでも自分が本当に欲しい英語素材が取れますよ。インターネットの発展で可能になったことです。

――今、月にどれくらい本を読まれますか。


遠田和子氏: 月に4冊くらいでしょうか。忙しいときと余裕があるときで異なり、波があります。参考書や学習書などは紙の本で、日本語の小説は文庫本。英語の小説やノンフィクションは最近では電子書籍がほとんどです。移動中など隙間時間にオーディオブックを聞くこともあります。



日本語の電子書籍はほとんど読まないです。だって選択肢が限られているでしょう?読みたい本はほとんどないです。日本の電子書籍はハードウェアが先行で本の点数が少なく、消費者にとって魅力が薄い。私はAmazon.comで電子ブックを買っています。Amazonは最初にシステムを構築してからデバイスを売るという所が上手く、日本は全体的なシステム作りが下手ですね。

――それはどういった所が阻害要因になっていると思いますか。


遠田和子氏: 日本では、メーカーが群雄割拠しています。規格も統一されていないし。いくらハードウェアを良くしても、「で、それで何読むの?」というと、漫画とか実用書とか…だけ。

――遠田さんご自身は、ご自身の本がスキャニングされて、電子デバイスで読まれるということに関してはいかがですか。


遠田和子氏: それは買った人の自由です(笑)。そこまで私にはコントロールできません。鍋敷きになるかもしれませんし(笑)、裁断されるかもしれません。でもスキャンの手間をかけて私の著作を電子化してくれるなら、それはそれでありがたいです。

電子デバイスで読んでもらうなら、電子版を出版して欲しいです。Googleとeリーディングに関する2冊は電子ブックに最適のコンテンツです。何故かと言うと、リンク。紹介しているサイトなどにリンクを全部張れば、ものすごくユースフルです。あと、詩人である星野富弘さんの自伝を共訳し『Love from the Depths』というタイトルで英語版を出しましたが、現在絶版になっています。絶版の本も電子なら再出版しやすいのではないでしょうか。

もうひとつ電子書籍の可能性について話をすると、いま小川英子さんの『ピアニャン』という児童書を英語ネイティブ・スピーカーと英訳しています。これは電子化してAmazon.comで販売予定です。小学校高学年対象の児童書で、子猫が新潟の田舎から渋谷に出て自立する物語です。児童書の翻訳はすごく難しいです。大人の読者は、「これは翻訳モノだから、この国はこうだろう」と考えつつ読みます。インドの物語を翻訳したら、「インドってこういう国だ」という知識がある。でも、子供は分からないです。「日本ってこんな国だよね」とか、「渋谷ってこんな所だ」と、全然分からないでしょう?文章だけでは乗り越えられない文化の壁がある。でも電子書籍なら、写真を入れやリンクをはることができます。例えば青山劇場がでてくるページでは、青山劇場にリンクをはるとか、渋谷の交差点が登場する場面では、交差点の写真を入れるとか。こんな風に電子版を作ると、児童書の英訳版というだけではなく、日本を紹介する本がつくれます。日本のポップカルチャー、女の子や若者がどういう風に感じているかなど、伝えられるような気がします。そういった意味で電子媒体には大きな可能性がありますよ。

――電子書籍が普及していく中で、今までよりも簡単に出版ができるようになってくると思います。こういった中で出版社は、どういった強み、役割があると思いますか。


遠田和子氏: 強みは経験と企画力でしょうか。私は紙と電子ブックは絶対、共存すると思っています。というのは、自分自身。電子ブックで沢山読みますが、あえて紙で買う本もあるからです。電子ブックに向いたコンテンツと向かないコンテンツがあるわけです。だから出版社には、それぞれの特性を生かし、いままで培った経験と企画力を発揮して良い本を作って欲しいです。

消費され消えていく本と、そうじゃない本がありますよね。一回読んだら二度と読まない本、あるでしょう?私はミステリーが大好きですが、ミステリーは2回読まないので電子書籍でいいです。反対に、すごく大切にしていて、傍らに置いて何回も読み返したい本もあります。参考書やアイディアを生むのにぱらぱら見たい本、愛読書の類は紙がいいです。気になる箇所が「ここらへんに書いてあったな」という本の身体的な感覚、あれ大事です。電子書籍の弱点の一つは、自分がどのあたりを読んでいるか感覚的にわからないこと。探したいページは「キーワードで検索すればいいじゃないか」と言われても、そう簡単ではないです。入力に時間かかりますから。

――「紙派ですか、電子書籍派ですか?」と言われたりもしますね。


遠田和子氏: それは愚問だと思います。今言ったように、本の内容によってふさわしい形態があるので。

――電子書籍化によって変わる事というのは、どういうことだと思いますか。


遠田和子氏: ひとつは、簡単に立ち読みできることです。Amazon.comの場合、最初の1章はダウンロードしてタダで読めます。新聞で面白そうな本の書評を読むと、私は1章ダウンロードします。それで続きが読みたいと思ったら買いますし、「んー、まぁいいか」と思ったら買いません。Malcolm Gladwellというノンフィクションライターがいますが、彼の本は始まりがいつも面白いです。Tina Seeligの『20歳の時に知っておきたかったこと』でも1章目に興味深い話が満載です。立ち読みする読者を意識している気がします。

――力入れているんですね。


遠田和子氏: そうです。1章分を読めるから、タダで、誰でも。

――書き手のスタイルも、そういう意味でも変化していくと思いますか。


遠田和子氏: ノンフィクションでは変化するかもしれないですね。小説は別です。第1章ばかり面白い小説なんかありませんから。

あと、電子書籍化により大きな変化が生まれているのが、著作権が切れたパブリック・ドメインです。日本では「青空文庫」があります。本家はProject Gutenbergで、古典を電子化し多くの人々が簡単に読めるようにしています。私もKindleに何冊かダウンロードしていますけど、無料です。テキストばかりでなく、世界中のボランティアによる朗読も手にはいります。Project Gutenbergに関連したLibriVoxというサイト(http://librivox.org)には、パブリック・ドメインの膨大なオーディオ・コレクションがあります。この前、風邪をひいて寝込んだときに、『赤毛のアン』をオーディオで聞きました。熱があって活字も読むのが辛いと、他にすることないから(笑)。ボランティアの朗読をダウンロードして、ベッドの中で聞くのは楽しいですよ。機械ではなくてヒューマンですから「読み聞かせ」みたいです。オーディオブックだと、目の見えない人だって本を楽しめます。



電子書籍に関して、オーディオはキー要素です。日本ではあまり、オーディオブックは流行っていませんが、アメリカではたくさん売られています。

本へのアクセシビリティは電子化でぐんと良くなります。

もう一つ期待している変化はソーシャルリーディングです。他の人と感想をシェアしながら本を読むことです。Kindleにはシェア機能があって、コメントをFacebookとTwitterに上げることができます。この前、韓国のミリオンセラーを英訳した『Please Look After Mom』を読んだんです。韓国は急速に経済成長しているから、儒教の教えをくむ親の世代と若い子供世代にはジェネレーションギャップがあり、そのギャップを描いた本です。読んだあと、Facebookに感想をシェアしたら、即座に韓国のFacebook友達が「この本が自分たち韓国の若者にどんな影響を与えて、どれだけ家族を考えるきっかけになっているか、あなたは想像もできない程ですよ」とコメントをくれました。「そうなんだ!」って。すごく嬉しいですよ。自分が読んだ感動をFacebookで共有し、それに対して他の人がコメントしてくれると、感動が増幅します。電子書籍とSNSをつなげることで仮想の読書会が可能になります。

本の新しい可能性には、本を通じたネットワーキングがあるのではないかと思います。

――紙と電子書籍が対立するのは意味がないと思われますか。


遠田和子氏: 対立の概念は、ナンセンスです。ただ、本当に本好きな人ほど電子化を嫌がる傾向はあるようです。図書館で毎日本に囲まれている司書の人が「電子書籍は読みません!」と言ったり、出版業界の真っただ中にいても、苦手と言ったり。本の世界にどっぷり浸っている人ほど、抵抗があるのかもしれません。

紙の本と電子書籍は、絶対両立すると思います。紙の本は無くなって欲しくないです。

取材場所:サン・フレア アカデミーの教室内にて

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 遠田和子

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