――「紙派ですか、電子書籍派ですか?」と言われたりもしますね。
遠田和子氏: それは愚問だと思います。今言ったように、本の内容によってふさわしい形態があるので。
――電子書籍化によって変わる事というのは、どういうことだと思いますか。
遠田和子氏: ひとつは、簡単に立ち読みできることです。Amazon.comの場合、最初の1章はダウンロードしてタダで読めます。新聞で面白そうな本の書評を読むと、私は1章ダウンロードします。それで続きが読みたいと思ったら買いますし、「んー、まぁいいか」と思ったら買いません。Malcolm Gladwellというノンフィクションライターがいますが、彼の本は始まりがいつも面白いです。Tina Seeligの『20歳の時に知っておきたかったこと』でも1章目に興味深い話が満載です。立ち読みする読者を意識している気がします。
――力入れているんですね。
遠田和子氏: そうです。1章分を読めるから、タダで、誰でも。
――書き手のスタイルも、そういう意味でも変化していくと思いますか。
遠田和子氏: ノンフィクションでは変化するかもしれないですね。小説は別です。第1章ばかり面白い小説なんかありませんから。
あと、電子書籍化により大きな変化が生まれているのが、著作権が切れたパブリック・ドメインです。日本では「青空文庫」があります。本家はProject Gutenbergで、古典を電子化し多くの人々が簡単に読めるようにしています。私もKindleに何冊かダウンロードしていますけど、無料です。テキストばかりでなく、世界中のボランティアによる朗読も手にはいります。Project Gutenbergに関連したLibriVoxというサイト(http://librivox.org)には、パブリック・ドメインの膨大なオーディオ・コレクションがあります。この前、風邪をひいて寝込んだときに、『赤毛のアン』をオーディオで聞きました。熱があって活字も読むのが辛いと、他にすることないから(笑)。ボランティアの朗読をダウンロードして、ベッドの中で聞くのは楽しいですよ。機械ではなくてヒューマンですから「読み聞かせ」みたいです。オーディオブックだと、目の見えない人だって本を楽しめます。
電子書籍に関して、オーディオはキー要素です。日本ではあまり、オーディオブックは流行っていませんが、アメリカではたくさん売られています。
本へのアクセシビリティは電子化でぐんと良くなります。
もう一つ期待している変化はソーシャルリーディングです。他の人と感想をシェアしながら本を読むことです。Kindleにはシェア機能があって、コメントをFacebookとTwitterに上げることができます。この前、韓国のミリオンセラーを英訳した『Please Look After Mom』を読んだんです。韓国は急速に経済成長しているから、儒教の教えをくむ親の世代と若い子供世代にはジェネレーションギャップがあり、そのギャップを描いた本です。読んだあと、Facebookに感想をシェアしたら、即座に韓国のFacebook友達が「この本が自分たち韓国の若者にどんな影響を与えて、どれだけ家族を考えるきっかけになっているか、あなたは想像もできない程ですよ」とコメントをくれました。「そうなんだ!」って。すごく嬉しいですよ。自分が読んだ感動をFacebookで共有し、それに対して他の人がコメントしてくれると、感動が増幅します。電子書籍とSNSをつなげることで仮想の読書会が可能になります。
本の新しい可能性には、本を通じたネットワーキングがあるのではないかと思います。
――紙と電子書籍が対立するのは意味がないと思われますか。
遠田和子氏: 対立の概念は、ナンセンスです。ただ、本当に本好きな人ほど電子化を嫌がる傾向はあるようです。図書館で毎日本に囲まれている司書の人が「電子書籍は読みません!」と言ったり、出版業界の真っただ中にいても、苦手と言ったり。本の世界にどっぷり浸っている人ほど、抵抗があるのかもしれません。
紙の本と電子書籍は、絶対両立すると思います。紙の本は無くなって欲しくないです。
取材場所:サン・フレア アカデミーの教室内にて
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 遠田和子 』