――書き手は、今までより読者の顔が見えてくる中で、執筆スタイルの変化があると思われますか。
永田豊志氏: さっき私が言ったようなことが普及してくれば、より細やかな部分で読者視点に立った本を書くということは可能になるんじゃないかなと思います。例えばAmazonのレビューをもらっても、それは1冊を通してこうだったという意見しかもらえないわけじゃないですか。でも、もしそれが、ページごとにココが良かったんだけど、アソコのページはもうちょっとこうした方がいいみたいなことがわかれば、かなり具体的な自分の改善というか読者のニーズを把握するのには役立つのかなと思います。
それから、出版社の事情で言えば、単行本は200ページくらいあって1500円くらいで売りたいというのがベースにあるので、正直書かなくてもいいようなことを書いて200ページにしているような本って、山ほどあるわけですよね。例えば50ページぐらいのちょっとしたエッセイを100円とか200円で売るということは、現在の流通上は難しいわけです。
――中身の問題ではなく。
永田豊志氏: 量の論理は当然働きますよね。それはある意味しょうがない部分もある。出版社も原稿をただ機械的に本にしているわけではなく、編集者が丁寧に編集、加工アドバイスしながら本を仕立てていくということになるわけです。そうなると、当然本のページ数が半分になっても手間はあんまり変わらなかったりするわけですよね。そういうことを考えて1冊の単価はある程度まとまった量がないと経営効率が悪いという出版社の論理というのも解らなくはない。
一方で、電子化によって出版界はかなり多様化するような気がしますね。ハードウェアコストは実質ゼロになるわけですから。例えばカラーの写真集って、カラー印刷であるが故に高いわけじゃないですか。ただ電子化の世界ではカラーもモノクロも全く同じコストになるわけなので、モノクロである必然性が全くなくなりますよね?そうすると今までは写真集って、値段もどうしても高くなっちゃうというのがあったと思うんですけど、素晴らしいアマチュア写真家が自分の作品を発表する場としてというような、今まで本としてはローンチしづらかったものがどんどん出てくるんじゃないかなと思いますね。
――出版形態が多様化しますね。
永田豊志氏: 多様化し、そしてニッチ化すると思います。
――最後に、人生の転機になった本というのをお伺いしてもよろしいでしょうか。
永田豊志氏: ビジネス書ではないですが、もう20年位前かな?『病院で死ぬということ』という本がありました。これは千葉かなんかの終末期医療に携わっているお医者さんが書いたもので、要するに延命治療をしてもその人の幸せには全くつながりませんよという内容の本だったんです。当時、ちょうどターミナルケアや終末期医療の問題が結構フォーカスされてきていた頃だった。
この本を読んで、「改めて1回きりしかない人生だな」ということを痛感したんですよね。延命治療が総じて悪いという話ではないんですけれども、本当に本人が満足して死んでいくということのために、何ができるかという風に考えると、自分自身がもし死ぬという時にやりきった感というか、自分の人生良かったなという風に思えるように生きたいなと思いましたね。
当たり前ですけど、この本を読んで、(人生は)長さではなくて質の問題だというふうな気づきがありました。去年も震災がありましたけど、いつなんどき天変地異が起こって、命が奪われるかもしれないというということを考えると、それを恐れていてもしょうがない。それよりも毎日が自分で精一杯やりきった満足感で満ち溢れていれば、将来の不安も払拭されるでしょう。
(聞き手:沖中幸太郎)
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