「聞き入る文化」を広めたい
――音声学習の効能が記された最初の本『脳が良くなる耳勉強法』を出版されたのは。
上田渉氏: ディスカヴァー・トゥエンティワン社長の干場弓子さんに「本を書きましょう」と言っていただいたのがきっかけです。オーディオブックの良さをいろいろな人に知ってほしいという思いで書き始めましたが、文献を調べたり、研究していくうちに私自身もっと知りたいという思いも強くなっていきました。出版後、多くの人にオーディオブックを認知いただき、また「耳勉強法」についても、脳にある程度の効能があることが科学的に立証されていると理解が広まり、各出版社がオーディオブックへ参加するという流れが出来てきました。
――「聞き入る文化」が広がっています。
上田渉氏: 私自身も、耳で読むほうが分かりやすいのでほぼオーディオブックで本を“聴いて”います。スマホで遊ぶ時も、仕事をする時も目や手は使いますが、耳はそれほど使っていないですよね。耳は隙間時間に使えるのが一番のポイントです。例えばランニング中に聴くと、効率的に本が読めます。LINEやメールをしている時でも、オーディオブックを聴くことはできます。忙しいと本を読む時間がどんどんなくなっていきますけれど、本を読む量を減らしたくないですよね。目で読む場合は、水晶体を調節したり、眼球を動かしたり、筋肉運動なので疲れますが、耳は聴くだけ。普通の音量であれば、受動的なので楽で疲れません。
今の私のお薦めは『嫌われる勇気』(岸見一郎さんと古賀史健さんの共著)。哲人役と青年役の二人の対話によって、アドラーの教えがわかる内容になっています。会話をそのまま音にできるので、文字を読むより分かりやすいです。
私自身にとって本は周りにあって当たり前の存在で、常に本に囲まれている気がします。読書にはいろいろな姿があって、学ぶこともできるし、楽しむこともできます。先生でもあるし友だちでもあります。私は34年間しか生きていませんが、読書によって人様の経験を自分で追体験して、経験値に転換することができる本は素晴らしい。ノンフィクションや失敗学の本はすごくためになります。最近、「失敗」という字が題名に入っているものは迷わず手に取ってしまいますね(笑)。
まだまだ世の中にはこうした素晴らしい本でも、オーディオブックになっていないものはたくさんあります。今年の4月6日には新潮社や小学館、講談社など出版社16社による「日本オーディオブック協議会」を設立し、弊社は事務局として、また私自身も常任理事として参加させていただくことになりました。これによりまた、市場自体も大きく伸長していくでしょう。これからももっと多くの人々に「聞き入る文化」を広げる、目が不自由な人の究極のバリアフリーを達成していく、出版文化を盛り上げる。この三つをただひたすらやり抜きたいと思っています。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 上田渉 』