上田渉

Profile

1980年生まれ、神奈川県出身。東京大学経済学部経営学科中退。 在学中から複数のNPOの立ち上げ、IT起業の経営を経て、2004年12月に株式会社オトバンクを創業。出版業界の振興を目的に、オーディオブックを文化として浸透させるべく良質なコンテンツを出版各社と共に創出するため、日々奔走している。 著書に『「耳読(ミミドク)」で、もっと読めるようになる!』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『20代でムダな失敗をしないための「逆転思考」』(日本経済新聞出版社)、『ノマド出張仕事術 1時間のプチ移動から本格出張まで』(実業之日本社)など。

Book Information

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聞き入る文化を広げる



創業10周年を迎えた株式会社オトバンクの創業者、会長の上田渉さん。オーディオブックによって新しい読書のかたちを提案し、文字を読むことが困難な人たちや忙しくて時間のない人にも、読書を楽しめるよう普及活動をおこなっています。その元になった自らの音声学習の経験や、祖父への想いとは。「聞き入る文化」を広めたいと願う上田さんの想いを伺ってきました。

ママチャリにまたがって


――2012年から株式会社オトバンクの会長職に就かれています。


上田渉氏: 創業当時からずっと、著者さまや出版社さまも含めて、世の中にオーディオブックを啓蒙する活動をしています。弊社は2004年の創業ですが、日本でオーディオブックが普及し始め「朗読」「耳で読む本」と理解していただけるようになったのは、創業して五年くらい経ったころだと思います。それまでにもカセットブックやCDブックなどがありましたが、出版社の中でオーディオブックの認知度はそんなに高くありませんでした。

最初はアポもない会社を「トントン」とノックするところから始まりました。創業当時はまだ学生だったので「変な学生が来た」というような感じになって、中に入れてくれないことのほうが多かったですね(笑)。神保町には出版社がたくさんあったので、電話するより回ったほうが早かったのです。今でもママチャリで移動していて、行ったことがないところを見つけては、お邪魔しています。外に出て、出版社の方と話して現場にいるほうが、いろいろな発想やアイデアが生まれるので。お陰様で、今は多くの方に知っていただけるようになりました。

――こちらには、専用のスタジオがありますね。


上田渉氏: このスタジオで声優の方や役者の方が朗読し、それを編集してオーディオブックにしています。コンピューターの合成音声も悪くないのですが、どうしても違和感が残るため聴いていて疲れてしまいます。やはり疲れないことが重要なので、人が朗読するほうがクオリティが高いし、聴いていて心地よいんです。感情表現が求められる文芸作品などは、特にそうですね。

また、キャラクターごとに役者の方を割り当てるというケースもあります。例えば、『海賊とよばれた男』は全部で29時間の超大作で、非常に男臭い本です。ですから渋みがあり、重厚感を感じられる声をしている人がよかった。そこで主役をお願いしたのが俳優の中村雅俊さん。さらに主人公の大恩人の役を俳優の國村隼さん、ナレーターをニッポン放送の上柳昌彦さんと、多くの方々に関わっていただきました。



好奇心を満たしてくれた読書


――上田さんは常々「聞き入る文化」を広げたいとおっしゃっています。


上田渉氏: もともと感じていた現状への疑問や、挫折とその打開策の試行錯誤が今に繋がっているのだと思います。昔から、普通の人であれば嫌がることなどを面白がる子どもでした。小学生の頃、中学受験のために通っていた塾が横浜駅にあったのですが、そこのダイヤモンド地下街(現在はザ・ダイヤモンド)で、夜な夜な塾の友だちと鬼ごっこをして遊んでいました。あるとき、動かない大きなドブネズミを見つけ、持って帰ろうと手でつかんだところ「ガブッ」とかまれて、そのまま破傷風の注射を打ちに……。親からは、「普通、動かないネズミがいたら、死にかけているか病気かと思わないのか!」と怒られました(笑)。猫や犬やネズミなど、とにかく小さい動物全般に可愛らしさを感じていたので、違和感なくそういうことをしてしまう子どもでした。またその塾では、先生がワープロの「書院」で手作りしたシールが成績に応じて貰えていたんです。ノートの表紙などに「バンッ」と張りつけるのが楽しくて、それだけのために勉強していましたね(笑)。

――周りが見えなくなるほど、のめり込んでしまうんですね。


上田渉氏: 読書も熱中すると止まらないんです。図書館を制覇しようと思っていたので、岩波少年文庫はほぼ読みました。ポプラ社の『少年探偵団』や『怪盗ルパン』、『海底二万里』など。
また当時、宇宙飛行士か学者になりたくて「超ひも理論」などが書かれた、割と大人向けの科学書のようなものを読んだり、科学雑誌『Newton』を毎号買っては意味も分からず読んでいました。児童文学も好きで、岩波書店の『モモ』、『はてしない物語』、『ナルニア国ものがたり』や『ゲド戦記』、それからムーミンや『ファーブル昆虫記』、『シートン動物記』など当時の児童文学、海外翻訳の本を読みあさっていました。

著書一覧『 上田渉

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