「成長」「チャレンジ」「攻めの姿勢」
岩崎日出俊氏: 留学前を含め、興銀では二十二年間働いていました。留学から帰ってきて二年半は、当時の外国部。その後五年間はシカゴ駐在員。帰国後は、審査部や営業部といった感じでした。バブル崩壊の過程で、貸し倒れるようなところでも簡単にお金を貸すようになって、興銀がだんだん違った方向に行っているように感じました。量を拡大するということで、銀行は一生懸命やっていましたが、本来金融の世界はそういった世界ではありません。株主から預かっている資本を最大限使って、株主に対して価値を高めるという発想に立つのであれば、量を拡大するという発想にはなりません。
ところが、貸せるのであれば目一杯どんどん貸す。貸せない先は縮小していく。私が色々言ってみても通じなかったし、このままでは一緒に沈んでしまうだけだと思いました。
「自分の一生だし、もう少し本当の金融を極めるような、活躍できる場所が他にある」と思って、外資に移る決断をしました。個人的には住宅ローンもありましたし、経済的にどうなるか不安もありましたが、アルバイト経験も豊富ですし(笑)、いざとなれば何とかなるだろうと思っていました。
――その後J.P.モルガン、メリルリンチ、そしてリーマンを経て、独立されます。
岩崎日出俊氏: 投資銀行部でM&Aをやっていましたが、勝ち負けの結果がくっきりと出る世界です。負けると、若い人は経験も積めないということで、辞めていきます。するとチームはどんどん弱くなってしまうので、とにかくやっている間は勝ち続けなくてはいけない。全世界から入ってくる情報を自分でこなして、最先端で自分が突っ走って勝たなくてはいけない。それができる年限として、私は45歳で始めましたけれど、50歳になる前には辞めようと思っていたのです。
――ずっと継続して進んでいける秘けつはなんだと思われますか。
岩崎日出俊氏: 「成長する」「チャレンジする」「守りに入らない」この三つが大事だと思います。どんなことでも、「もうこれでいいや」と思って守りに入ってしまうと面白くないですよね。「面白い」と思えることが大切だと思います。
この人たちのために、という思いを込めて
――そうした想いをブログや本にまとめられています。
岩崎日出俊氏: 早稲田大学高等学院の時の仲間たち10人から15人くらいで「みんなどのような仕事をやっているか」などと月一回、勉強会をやってきました。講師を招いたり、他の分野の人も参加してもらったりしていました。そこで幹事に「お前、外資で面白そうなことをやっているので話せ」と言われて、自分の経験や、金融、経済のことを話しました。その時、祥伝社の編集長が勉強会に来ていたのです。翌日になって「昨日の話が面白かったので、本にしてください」と言われたのがきっかけで、最初の本『サバイバルとしての金融』が出たのが始まりです。
講演では、自分が話したいことを話せました。ところが編集者の人は「それでは困ります。読者が読みたいことを書いてください」と言うわけです。「発想を変えないといけない」と言われた時は、結構びっくりしました。本によって違うと思いますが、読者層をイメージして、失敗談も含めてその人たちに参考になるようなことを書くということなのです。ストレス発散のために、書きたいことはブログに書いています(笑)。ブログは読みたい人が読んでくれればいいけれど、本の場合は、お金を払って読んでいただくので、それに対する対価をきちんと提供しないといけない。そういうつもりでやっています。
――最新刊『残酷な20年後の世界を見据えて働くということ』が好評です。
岩崎日出俊氏: 『残酷な20年後の世界を見据えて働くということ』の想定読者層は、出版社の人に言わせると、“本を売るのが難しい世代”だという、20から40代くらいの人をターゲットにしています。今、日本の人口の三分の一以上が六十歳以上で、この人たちが1600兆円と言われる日本の個人金融資産の80%以上を持っているとも言われています。一方で、五十九歳以下は住宅ローンを抱えている人も多く、日本の個人金融資産の20%以下しか持っていない。若い人は貧しくて、高齢者がお金を持っているのです。だから、『週刊現代』にしても『週刊ポスト』にしても購読者は六十歳以上が多いのです。ここをターゲットにすれば本は売れますし、編集者の人からは「売れる本を」という依頼がくるのですが、今回は「私は20から40代くらいの人たちにメッセージを残したい」と言って編集者の人も納得してくれました。そういう意味では、今までの本と違った思い入れがありますよね。
高齢者が優遇され過ぎてしまって、このままでは日本の若い人がどんどんやる気がなくなって、社会が衰退していくという危機感がありました。だからそこを変えていかなくてはいけないと思い、筆をとりました。飛行機の国際線に乗っても、ツアー客のほとんどが六十歳以上の方々です。2〜30代の人が、バックパック背負って、一週間程度の海外旅行に行くことができる。そういう社会でないとおかしいと思いますよ。選挙も高齢者の投票率が高いのですが、若い人のことを考えて政策を立ててほしいと思います。そういったことをメッセージとして込めています。
私は小さい頃から、ずっと本によって、自分の知らないことを知ってきました。ウォーレン・バフェットという人のことを書いた本を何冊か読んで、投資の世界に興味を持つようになりました。買収ファンドのことを書いた『Barbarians At The Gate』(日本語訳 『野蛮な来訪者』)は、原著で読みましたが、この本は非常に面白くて、投資銀行とか、そういう世界に自分も入りたいと思うようになりました。高校の時は、『20カ国語ペラペラ』という本を読んで、語学に関心を持ちました。種田輝豊さんという、本当に20カ国語を話せる人が書いた本で、この本がきっかけで英語を一生懸命勉強しようと思いました。私の場合は、自分の人生の節目に本があり拓けてきたので、皆さんにもぜひ色々な本を読んで糧にしてほしいですね。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 岩崎日出俊 』