石川幹人

Profile

1959年、東京生まれ。東京工業大学理学部卒業、同大学院総合理工学研究科物理情報工学専攻中途退学。松下電器産業㈱、(財)新世代コンピュータ技術開発機構研究所などを経て現職。博士(工学)。不思議現象や疑似科学を信じる認知プロセスの研究を専門とする他、日本における超心理学研究の第一人者としても知られる。 著書に『「超常現象」を本気で科学する』(新潮新書)、『人はなぜだまされるのか―進化心理学が解き明かす「心」の不思議』(講談社ブルーバックス)、『超心理学―封印された超常現象の科学』(紀伊國屋書店)、『人間とはどういう生物か―心・脳・意識のふしぎを解く』(ちくま新書)など。

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マイノリティーの問題を解決したい



石川幹人氏: それで、その「本当かよ」という率直な想いと共に、「その研究をやりたい!」と上長に訴えたのですが、「君みたいなことを言ってきた人は過去に一人もいない」と言われました。みんな会社の方針に合うような既定の進路に自然と進むのでしょうけど、やはり私は、本来ズレているので意識しないと合わせられないようです。合わせたくなかったら合わせない行動を取る。その行動の結果、そんな風に言われました。

――自然に合わせるのではなく、疑問に対して考えたり進んだりせざるを得ないからこそ、今の研究に繋がっていったのではないでしょうか。


石川幹人氏: 私の姿勢はマイノリティーの反旗のようだと感じます。最近注目している進化心理学を紹介しましょう。この進化心理学で言われている、「生まれながらにして強みや弱みは、ある程度存在する」という話は、1970年ころには証拠が出ていて、生物学的にはかなり正しいとみなされていました。でもその事実は、文科系には浸透していないのです。

それは1920年ぐらいの“経験主義”の人間観が災いしています。「生まれた時はまっさらで、色々なトレーニングを積むとそれに従って人間は作られていくんだ」という考え。多くの人がそれを当たり前だと信じ込んだため、データにもとづいた生物学の主張に目が向けられないのです。それなりに主張は繰り返されているのですが、受け入れられていないという状況がずっと続いています。正当な主張なのに目が向けられないという、思想的な「マイノリティーの問題」が見えてくるのです。

だから私は、本を書く事で、マイノリティーの問題を改善したいと思っています。それは思想だけでなく、人も同様で、何かの事情でマイノリティーになってしまい、色々な圧力を受けているような人を支援したいとも考えています。

例えば私は、遺伝的に酵素、アセトアルデヒドデヒドロゲナーゼが欠落していて、お酒が飲めません。昔は、大学のサークルでイッキ飲みがあったり、就職したら営業はたくさん飲まなきゃいけないというような風習がありました。私のようなお酒が飲めない人にとっては過酷な状況でしたし、やはりこういったところは改善しなきゃいけないと思っています。

お酒は自分が当事者でもある問題でしたが、現代の、例えば女性の社会参画に関する問題であるとか、そういった改善するべきことが、いくつもあるわけです。「こんなのはおかしいじゃないか」という思いです。マイノリティーとされるものに目を向けることにより、マイノリティーによく起きているような抑圧の問題をなんとかしたい。それが私の基本的な思いなのです。

小さな集団の中で固まるのは、協力ではない


――マイノリティーが抑圧を受ける状況とは。


石川幹人氏: 算数が苦手なら計算ドリルを一生懸命やりなさいというような、旧態依然とした教育などは、まさにその典型。でも、そんなのは電卓でやればいいじゃないかという話なのです。目が悪ければ眼鏡をかけるように、色々なことを工夫しながら自分の強いところを生かして、弱いところに無益なトレーニングをするのではなく、文明の利器を使ってサポートしていく。できないことが社会的抑圧につながってはいけないのです。

例えば、算数が得意な子と国語が得意な子で協力したりして、人間として助け合えばいいわけです。にもかかわらず、算数が好きな子だけや、国語が好きな子だけで固まるのが現実の集団でよく起きていることです。古代の生活集団のような「そりが合うような人たちの集団」というものが理想になってしまったからです。助け合えば色々なアイディアが生まれるのに、なんでそんなに古いことにこだわっているのか。それは恐らく、異質を排除し、大勢に合わせてしまう人たちが多いからなのだと思います。だからこそ、私は埋もれたものに目を向けることを重要視したいと思っているのです。

著書一覧『 石川幹人

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