「この人のために書こう」と定めて、本を書く
――どんな想いで、本を書かれていますか?
黒川伊保子氏: 実は私は、目標というのを立てたことがないのです。私はこういう風になりたいとか、講演をしたら皆に素晴らしいねと言ってもらいたいとか、55歳なのに40代に見られたい(笑)といったものが一切ありませんし、理想の形も決めないので引き算でものを考えたこともありません。ただ、誰よりも自信があるとしたら好奇心ですね。ビジネスには関係がありませんが、この夏、ダンスのデモンストレーションを踊るので、そのことで今は頭がいっぱいです。私はボールルームダンス、昔風に言うと社交ダンスを36年やっていて、発表会で先生と踊るだけなのですが、とても楽しみです。その趣味のダンスの発表会だけは、命をかけているから、めちゃくちゃテンションが上がるんですよ(笑)。これからダンスの新しい本も書こうと思っています。
――ダンスの本以外にも、書いてみたいなと思われているものはありますか?
黒川伊保子氏: 私の場合は「あんなこともこんなことも伝えてあげたい」といった感じで、書きたくて仕方がなくなるのです。例えば今、2つ新書を抱えているのですが、その1つのテーマはビジネス版“英雄の書”。お友達の、大学生の息子さんと喋っていると、「こうすると恥をかくから」などと考えているように思い、「もっと無邪気にのびやかに生きていけばいいのに」と私は感じたのです。その足枷を取るために、色々な脳科学のコツをその本では書こうと思っています。息子が中学2年の時、調理実習の日に、朝少し体調が悪くて遅刻したことがあるのです。私が息子に「早く出かけなさいよ」と言うと、「『黒ちゃんは料理ができたところに来る』ってみんなに言われたら恥ずかしいし、食べるだけというのも自己中だから、今行くのは嫌だ」と言いました。私は「食材は人数分用意されているし、みんなあなたの分も作ってる。あなたのするべきことは、おいしそうに食べて、『後片付けは僕がやるね』って言うことじゃないの?男はね、時々失敗してとやかく言わせた方が懐が深く見えるのよ」と言ったら、初めての親子喧嘩になりました(笑)。結局息子は私の話に納得してくれて、放課後ぐらいの時間帯にメールがきて、「みんな『黒ちゃんは舌が肥えているから、味見してほしかったんだ』と言ってくれた。行って良かったよ」と書いてありました。
――そういう心のやり取りにヒントがたくさんありそうですね。
黒川伊保子氏: 後に息子からは、「あれは勉強になった。失敗というより人にとやかく言われることが怖くなくなった」と言われました。そういう心構えがあると、ドシンと構えられますよね?そういった話をいくつか繋げていって、来年の新入社員に買ってもらえるように準備しようと思っています。「新入社員が読むための脳科学の本を書いてください」と言われた時は難しいなと思っていましたが、企業に買ってもらうというよりは、友人の息子さんにプレゼントしてあげようと思ったら、書けるなと思えてきました。私が本を書く時、一番大事なのは、「誰のために書くか」が定まることなのだと思います。例えば編集者から、「実は失恋したばっかりなんです」と聞くと、「この子のために男女脳の本を書こう!」と思うのです。
喜びも悲しみも全部、私のために用意されているというか、この世の全てが私のための舞台だと私は思っています。また、私は自分のことを、息子や夫、友人、クライアントの“喜び組”だと思っています(笑)。喜ばせるのではなくて、喜ぶ役。男性は特に女の人に喜ばれたらうれしいと思いますので、心を込めて精一杯喜ぼうと思っています。
イホコ流に人生を捉えると、めちゃくちゃ楽しめると思うんです。実際にネガティブなことが起こった時にも、このこと、誰に言いつけて甘えようかな~とか思ってますから、この人は(笑)全ての人がそれぞれの人生の主人公なのだから、人は委縮する必要はないと私は思っています。もし、委縮しそうになったり、偏差値に負けそうになったりした時、あるいは何かの客観的評価に負けそうになった時には、私のような、こういう考え方の人間もいたなと、思い出してほしいなと思います。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 黒川伊保子 』