黒川伊保子

Profile

1959年長野県生まれ、栃木県育ち。奈良女子大学理学部物理学科卒業。 大学卒業後、コンピュータメーカーにてAI(人工知能)開発に携わり、脳とことばの研究を始める。脳機能論の立場から、語感の正体が「ことばの発音の身体感覚」であることを発見。AI分析の手法を用いて、世界初の語感分析法である『サブリミナル・インプレッション導出法』を開発し、マーケティングの世界に新境地を開拓した、感性分析の第一人者。 近著に『家族脳: 親心と子心は、なぜこうも厄介なのか』(新潮文庫)、『シンプル脳育術』(エクスナレッジ)、『キレる女 懲りない男: 男と女の脳科学』(ちくま新書)、『いい男は「や行」でねぎらう いい女は「は行」で癒す』(宝島社新書)など。

Book Information

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この世は全て、「バーチャルリアリティ」
楽しまないと、もったいない。



株式会社感性リサーチ代表取締役。マーケティングの分野に新境地を開いた感性分析の第一人者。2004年、脳機能論とAIの集大成による世界初の語感分析法『サブリミナル・インプレッション導出法』を発表。そうした研究をベースにした商品名の語感分析サービスを開始し、大塚製薬の「Soy Joy」「ソイカラ」「SOYSH」をはじめ、多くの企業からヒット作を生み出しました。その語感分析サービスは、市場が多様化する21世紀ならではのマーケティング手法として、脚光を浴びています。著書には、『怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか』『恋愛脳―男心と女心は、なぜこうもすれ違うのか―』『「しあわせ脳」に育てよう!』『いい男は「や行」でねぎらう いい女は「は行」で癒す』などがあり、男女脳の可笑しくも哀しいすれ違いを書いたものや、語感の秘密を紐解く著作で人気を博し、日本テレビ「世界一受けたい授業」やNHK教育テレビ「日本語なるほど塾」などに出演。『an・an』や『SPA!』など雑誌の恋愛特集のコメンテーターとしても活躍をされています。今回は黒川さんに、言葉の研究との出会い、息子さんから得たヒント、そして読者に伝えたい思いをたっぷりと語っていただきました。

バーチャルリアリティを楽しもう


――最近「ごきげんよう」で見ました。『VOGUE』では冨永愛さんと対談されたそうですね。


黒川伊保子氏: 「ごきげんよう」のプロデューサーの方が私の本の愛読者だったそうです。前に「さんまのホンマでっか!?TV」に出演した時には、さんまさんから“塩ちゃんこ”というあだ名をつけられました(笑)。その時も、スタッフの方が私の本を読んでくださっていたのです。私自身、もともとは分析屋なので、メディアへ露出する仕事に関しては、本が営業マンになってくれているようです。テレビへの出演などは全く頭にありませんでしたので、私にとっては神様からのボーナスのような感じでもあります。でも、自分が出たテレビは一切観たことがありませんし、家族も絶対に観ません。息子からは「母のことはすごく好きで大切だけど、テレビに出てるのを観るのは、干している自分のパンツを見られるみたいで恥ずかしい」と言われて、「なるほどな」と思いましたね(笑)。だから息子が高校生まではできるだけメディアには露出しないようにして、彼が大学生になって初めて、テレビなどに出るようになりました。

脳というのは、自分の視覚を経て、見るもの見ないものを決めて、そして見えていないのにもかかわらず、保管したりもするのです。結局私たちの脳は、この世をバーチャルリアリティで楽しんでいるだけなのです。だから私は、周りにどう見られるかということは考えたことがありません。テレビに出て失敗したら笑ってもらえばいいだけなのです。でも、「人を傷つけないようにということだけ」には、気を付けたいと思っています。ほかの人からの評価というのはあまり気にしたことがなく、私は、周囲に対する自分の評価だけが気になるのです。つまり、私を取り巻く今の世界が、私が楽しむのに値するのかどうか、ですね。ことばにすると高飛車ですが、もっとシンプルで素直な気持ち。何年生きるか分かりませんが、この世は誰の脳にとってもバーチャルリアリティだから、その映画の中のような世界に入ってしまった私が、どれだけこの世で楽しめるか、ということをいつも考えているのです。この場合の「楽しめる」の中には、なかなかうまく行かなくて切ない気持ちになることや、試練も含まれています。「何の障害もなくうまく行く」なんて、ちっとも面白くない。

――そうやって考えると、新しいことへの挑戦を躊躇するのはもったいないですね。


黒川伊保子氏: そうですよね。「あがる時にどうしたらいいですか?」などと聞かれることがありますが、私は「あがるってどんな感じ?」と逆に聞いてしまいます。この世はバーチャルリアリティだと思っているから、「緊張」して「あがる」という感覚が、私にはあまりわからないのです。でも、結婚式の乾杯の音頭を取らなくてはならなくなった時だけはあがりました。結婚式の乾杯の音頭は2度やってしまうは縁起が悪いとされているでしょう?「人の結婚式を台無しにしちゃいけない」という感じですごく緊張して、手が震えてコップがゴトゴト鳴っていました。でも偉い人に会う時も、2000人の前で講演する時も、テレビに出る時も私はあがりません。それは倫理観の問題でもなく、結局、バーチャルリアリティだと思っているからなのです。それに講演などに来ている人は、ある程度のコストや時間をかけて会場に来てくれた、ということで、ある意味全員、私の味方ですよね。「ここに私の味方が2000人いる」と思えばいいだけの話なのです。私は、私の人生で見つけた脳の秘密について真摯に話をするだけなので、それが役に立つかどうかは受け取る人次第です。ジュラルミンのように私の心は傷つかないから、酷評されても平気ですよ(笑)。

――捉え方次第なのですね。


黒川伊保子氏: 好き嫌いというのは感性の振れ幅なのです。それは好きにも嫌いにも振れるものなので、好きの反対は嫌いではなく無関心なのです。これが一番恐ろしいです。私が提供する何かに対して、感性の針が振れたということなので、嫌いと言われるのは大歓迎です。それを簡単に好きの方向へ振ることができますし、逆に好きと言ってきた人は嫌いの方向へと簡単に振れてしまうこともあります。私は「あなたのことは認めるけれど、なんかちょっと嫌いなんだよね」という感じに言われるぐらいの方が安心します。将来、「分かり合えるイベント」が楽しめる、遊び相手の候補一人ゲットって感じ。「今のところは好きになってくれなくて結構です」と考えることができたら、人生は、本当に楽ですよ。

母親が楽しそうに本を読めば、子どもも本の楽しさを覚えていく


――黒川さんの読書遍歴が気になります。


黒川伊保子氏: 小さい頃、私は『赤毛のアン』がすごく好きで、私自身も赤毛のアンのような利発な子だと思い込んでいました。でもそれは記憶のすり替えで、それは小説の中の、本当に大好きだった主人公のことだったようです。実は私は、すごくぼんやりしていたそうなの。小学校の時の友達と20年ぶりぐらいに同窓会で会った時に、みんながびっくりしていました。「あなたがあの伊保子ちゃん?学校が終わっても気づかすにぼーっとしていたのに、ちゃんと大人になったんだね」とみんなが言っていました。そんなわけで、習い事はことごとく挫折、塾にも通わず、全く親に干渉されませんでした。でも、逆に何もすることがなかったのが、良かったなと今は思います。本は、そんな私にあらゆる世界を見せてくれましたから。

――ご両親も本がお好きだったのでしょうか?


黒川伊保子氏: 父は私も通っていた高校の教師で、街で一番大きな本屋さんにツケが利いたんです。父が「本だけは買う事に躊躇する必要はない」と言ってくれていたので、小学生なのに本の値段を見ずに買う事ができました。だから、大学生になって初めて、「本はこんなに高価なのか」と驚いたことを覚えています(笑)。父は漫画も含めて、本という印刷物は全て買うことを認めてくれていました。子どもの時に、本に関してはすでに大人買いもできましたので、ぜいたくだったなと思います。図書館も大好きでしたが、新刊など図書館にない本もあるので、私は時間があれば本屋さんに行っていました。本を読むのに忙しくて、あまり遊びたいとも思いませんでしたね。

――本が好き、ということと脳はどのように関係していると思われますか?


黒川伊保子氏: 脳は、夜寝ている間に、日々の体験から知恵やセンスを切り出して、脳神経回路に定着させていきます。本で読んだ出来事も、日常体験に準じて、脳に書き込んでいくことができます。本を読んで、わくわくしたり、どくどきしたり、悔しがったり、ロマンティックにふけったりすることは、脳神経回路を豊かにする行為。読書はとても有効な脳のエクササイズです。私は、高校を卒業するまで、喫茶店にも行かなかったような経験の乏しい田舎の子でしたが、『あしながおじさん』を読んで、20世紀初頭のアメリカの女子大の寮生活を知っていました。それに憧れて、躊躇なく家から離れた女子大に行き、寮生活もしました。私が自分自身の世界を広げてきたのは、本が私の脳に与えてくれた「日常を遥かに超える生活疑似体験」のおかげ。若者よ、本を読みなさい、と言いたいですね。



脳育てのための子育て講演で「子供を本好きにするにはどうしたらいいですか?」という質問をされることがあります。その質問に対して「お母さんは子どもの前で、本を読みますか?」と私が聞くと、「読みません」と答える方もいますが、テレビと違って読書は能動的なものだし、読んで楽しむには文脈を解釈しなくてはいけません。頭の中にイメージも作らなければいけないから、読書をしているとき、実は脳は大変なことをしているのです。でも「これは面白いことだ」という思い込みがあるから、読書をすることができるのです。子供に「本は面白い」と思ってもらうためには、やはり親が楽しそうに本を読むしかありません。「お母さんがあんなに楽しそうに読んでいるのだから、きっと面白いに違いない」といった感じで読み進めていくことができるのです。

お母さんたちには「本を読むのがつまらなくても、女優になったつもりで楽しそうにページをめくってください」と私は言っています。強制されて本を読むことほどつまらないことはありません。一度、試しに「今日から、うちでは宿題をやるのも、教科書を読むのも禁止です」と息子に言ったことがありますが、息子は布団に隠れてまで教科書を読んでいました。でも、教科書を読んでいるのを見て、私が少しうれしそうにしてしまったので、「なんだ読ませたかったのか」と作戦はすぐにばれてしまいました。うちの息子は、私の企みを見抜く才能があるような気がします(笑)。

著書一覧『 黒川伊保子

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