読書は特別な時間を生む
――普段からよく読書はされますか?
川島隆太氏: 僕は出張の時、必ず文庫本を数冊持って行くのですが、東京に新幹線で行く時も、だいたい往復で1冊ずつ、計2冊の少し厚めな文庫本を持って行きます。僕にとっては新幹線に乗っている時間が、読書タイムです。時間がないので本屋へはあまり行かず、Amazonなどで本を買うのですが、評判を聞くなどして、面白いと思った作家さんを見つけたら、その人の本を年代を追って全て読みます。順番に読んでいくと、その作家さんが作ろうとしている精神世界がなんとなく見えてくるのです。その世界に共感できれば最後まで追いかけますし、逆であれば途中で止めます。最近は、過去に直木賞をとった作家さんの本を1冊文庫で買い、肌に合えば、ざっと読むなどしていました。読書は、僕にとって貴重な遊びであり、リラックスするための大事な時間です。普段は本を読んでいる暇がないので、出張が楽しみです。
――ご自宅にも本はたくさんあるのでしょうか?
川島隆太氏: 子どもたちや女房が読む用に、僕が読んでいるものは居間に置いておきます。それからしばらく経ったものは、本棚の方に移していきます。最近は、非常に疲れているのか軽いものを読んでいます。先日は、万城目学さんの本を読みました。万城目さんの『鹿男あをによし』とか、福井晴敏さんの『終戦のローレライ』など、映画になった原作の本などが本棚にあります。ここ2、3カ月の間に東野圭吾さんや伊坂幸太郎さんの本も、出張の時に読みました。
――ご家族で読んでらっしゃるのですね。
川島隆太氏: 居間や本棚に置くことで、僕がどんな本を読んでいるか家族に分かりますし、それを家族が読んで「面白い」と思った時は一緒に話ができます。女房は、僕が読んだものをみんな読んでいて、「この人はつまらない」「これは面白い」「なんでこれが面白いのか分からない」などと、感想を言ってきます。子どもは、難しい文を書く人の本にはついてこられず、自分自身の想像力を要求するような本が苦手のようです。子どもたちを含めて家族みんなが食いついたのは、浅田次郎さんの本です。彼の本は非常に平易な文体で、かつ世界観も割と広く作ってくれています。彼の本には入りやすさがあるように思います。
作家さんの世界に入り込む、2つの方法
――先生の本にも入りやすさを感じますが、執筆の際に、意識されているのでしょうか?
川島隆太氏: 良い面と悪い面があるのですが、読み手に合わせて分かりやすく書いています。上から目線的なところがある本もありますし、そういった場合は、作家さんの精神世界に無理やりにでも入っていこうとする努力をしないといけないとも思います。僕は、三島由紀夫の本が大好きで、『豊穣の海』がとても面白いと思っているのですが、彼の世界に入っていくというのは体力が必要です。僕たちの常識とは全然違うところを見ている本の世界に入り、自分の世界を作ろうと思うと、とてもエネルギーを使いますし、まとめて読書しなければ、再度その世界に入るのは大変辛い作業になります。でもそれはそれで読書のあり方としてあっていいと思いますし、敷居を低くしてとりあえずその世界に入ってきてもらうというやり方があってもいいと思います。僕の場合は子どもに向けて書いているので、大変な作業をさせないため、その本の世界に入りやすいように書いています。大正や昭和の作家さんたちの文章というのは格調が高すぎて、彼らが何を考えていたかというのを思い知るのはとても難しいのですが、あの精神世界の中に入る努力をするというのは結構な鍛錬になると思います。でも、疲れている時は今の作家さんの方が読みやすく、非常に心安らぐので良いです(笑)。
――今後の活動について、お聞かせ下さい。
川島隆太氏: 4月から研究所長になります。僕自身が気を配る範囲が非常に広くなりますので、そういう意味ではこれからの1年の僕のキーワードは「滅私奉公」です。でも滅私奉公しつつも、研究者としての自分をどう保つかというのが、今後数年のテーマだと思います。今までは自分の研究室にいる50人くらいの人間が間違った方向に行かないよう、僕と同じ方向を見てもらえるように、川の向きをやんわりとこちらへ、という意識でやっていましたが、これからは数百人の人を預かることになります。そういった中でも、僕は自分の夢とも向かい合っていたいので、管理者としての仕事だけに自分の全てを取られるのはまずいなと思っています。ですから、どうやってバランスを取るかということが大きなテーマです。これを乗り切れるかどうかは、大いなる実験ですね。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 川島隆太 』