竹内薫

Profile

1960年東京生まれ。東京大学教養学部教養学科卒業(専攻、科学史・科学哲学)、東京大学理学部物理学科卒業、マギル大学大学院博士課程修了(専攻、高エネルギー物理学理論)理学博士(Ph.D.)「猫好き科学作家」(サイエンスライター)として科学評論、エッセイ、書評、講演などを精力的にこなす。科学の真面目な解説があるかと思えば、それを小説風に料理したSFタッチのショートショートも登場。不可思議なミステリーも飛び出す。本の多くには変幻自在のシュレ猫が登場する。テレビ番組への出演もこなし多方面で才能を発揮、独特の「竹内ワールド」を展開。スポーツインストラクターの妻と猫4匹とともに横浜に在住。

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―― 仕事、ワーキングスタイルに変化はありますか。


竹内薫氏: ありますよ、新しいデバイスが出てくると試すじゃないですか。それが自分のライフスタイルと合致しそうであれば使用する、強制的に使うことはないですけれど。

―― 効率は良くなりましたか。


竹内薫氏: そうですね、確かに良くなっていると思います。紙だと送ってくるまでにまず1日掛かる訳ですよ。こちらから送り返す時に1日掛かるから、結局その輸送の2日は仕事できません。でもPDFで原稿の修正を確認すれば、その2日間が使えるから、時間が有効活用できますね。書き手にとってはものすごく良いことです。

―― 使い様、その場、その場に応じて使用すればいいですよね。


竹内薫氏: ただちょっと違う部分が確かにあると思うのは、自分の原稿は送る前必ず一度印刷して、紙で読みます。そうすると、理由はわかりませんが紙で見た時に見つかる誤りとかが結構あります。それがなぜ画面でわからないのかは、面白い現象ですけど。ただ画面しかないと思ったら、ちゃんと確認するのかもしれません。紙で印刷をする、という意識があるから画面ではきちっと見てないのかもしれません。実際はわかりません。

―― これからの電子書籍に望むものをお伺いします。


竹内薫氏: とにかく新しいコンテンツに関しては、紙と一緒に出して欲しいですね。発想の転換を早くやらないと、ビジネスチャンスをどんどん逃す訳で、紙で買い続けたい人は紙で買えばいいんと思います。僕だっておそらく紙の本もずっと買い続けますが、オプションとして電子版で読みたい人に提供するのは、当たり前のような気がします。僕は川端康成さんの作品が好きで『雪国』を自炊したことがあるのですが、大変なのですよ。時間食って。代行してくれる人がいたら頼みますよね。

―― 便利な点といえば、単純に代行作業だけではなく技術的なサービスも魅力ですよね。デバイスに合わせたチューニングなどは。


竹内薫氏: そう、自分でやると、綺麗にいかない部分がある訳です。

―― 今あるその蔵書に関して、ずっと置いておけばページをめくる度にどんどんカビ臭くなってしまいますが、電子化することによってそういったものも保存できますよね。


竹内薫氏: はい、極論かもしれませんが、今、本が売れないひとつの大きな理由がみんな本をたくさん持ちすぎている。それで本棚が飽和状態になっているから本は売れない、それはたぶんここ10~20年近く前からそうなっていると思います。僕自分の経験から言いますが、本棚が全部一杯の状態で、新しい新刊もたくさん買ってくることはないですよ。

―― なるほど。


竹内薫氏: 僕のように職業作家をしていると、いろんな所から本が送られてくるのですね。1日1冊くらい送ってくる訳です。1年経つと300冊増える訳です。本棚いくら足したって駄目。まあしょうがないから、当初すごい僕が悪口を言っていたんだけど、結局自分でも大手中古書店へ持っていって売る訳ですよ。でなきゃ、捨てるしかないので。それを考えたら、今、全国のそういうまあ本棚を全部自炊して電子化すれば、また紙の本は買う余地が出てきますよ。

―― 場所取りの問題も、ですが災害の際の倒壊の危険性という意味でも。


竹内薫氏: そうですよね、どうしても紙の本で取っておきたいというのもあります。それは装丁がすごく綺麗な本とか。それは僕、良いと思います。ですが、本棚にある古い文庫本などは全部自炊してしまってもいいのでは、と思いますね。

―― では逆に、装丁の部分とか紙の『ここが好きだ』という点を伺えますか。


竹内薫氏: 僕は、紙の本は消えてなくならないと思います。インクの匂いとか、好きですよ。

―― 私も、大好きです。


竹内薫氏: そうですよね。(笑)やはり、自分の本でも出来てきた時にこう来るとまず匂いを嗅いだりするのです。あとは装丁、作る人がデザイナーさんとかが、一生懸命やってくれます。そういった部分はやはり必要と思います。触った時の質感も。

―― 私もNHKテキストの質感と匂い、好きですね(笑)。


竹内薫氏: NHKテキスト(笑)。

―― 電子書籍によって変わること。読み手と書き手それぞれどのように変わって行くのか。可能性としては双方向のコミュニケーションがしやすくなると思うんですけれども、どのように変化していくとお考えですか


竹内薫氏: 読み手の場合、デバイスごとにいろんなサイズがありますよね。タブレット自体が工夫されてるきていると思う。結局本の世界で文庫があって新書があって、単行本があるみたいなのと同じような感じで、タブレット自体の進化が必要で、みんなが自分のライフスタイルに合ったタブレットを使って読むっていう時代が来ると思うんですね。読書専用で、電子ペーパーみたいな、軽くて薄いものに特化してもありだと思います。それを何冊も持ち歩くことができる。

―― 自分にあった形を持ち歩くことができ、さらに物理的な制約から解き放たれるような感じですね。


竹内薫氏: そうですね。自分の本棚をそのままバーチャルな感じで引っ張っていくそうなると思いますけどね。今すでに音楽がそうなっているように。

―― 書き手の執筆スタイルに変化はあるでしょうか。




竹内薫氏: 油断する可能性が出てくるのはいけないと思います。電子書籍だと、修正できる。間違った記述とかがあったとしても、アプリの更新みたいな形。紙に印刷するとなると、一旦それを1万冊印刷した場合、間違った部分が1万コピー出る訳でしょう?これは大変です。だから校閲とか、老舗の出版社はそういうノウハウがものすごくありますね。

―― それこそ、出版社が培ってきたノウハウが生かされるとこでもありますよね。


竹内薫氏: そう、だからね、理想的な形はやっぱり、紙と、電子。これを同時出版して欲しいなと思っています。ちゃんと紙用に作って、それを電子化する。要らないように見えるけどやはりそれは、段階を踏んだ方がいいというのが、僕の考えですね。そうするとキチっとしたものができる。

―― なるほど。ところでこの取材の後、国際宇宙ステーション『きぼう』の公演に出演されますが、宇宙ステーションは、長期滞在していろんな研究をされると思うんですけど、結構長い期間だと思いますが、宇宙飛行士の方にとって宇宙での生活の仕方も変化しますよね。


竹内薫氏: そうですね、宇宙空間はとにかく重いものを運んで行くとお金が掛かってしまう訳です。例えば半年間滞在する時に、電子書籍でしたら本の持ち込み制限が無い訳ですから、デバイス1個でできるというのは、大きな変化をもたらすでしょうね。

―― 地球から送信することも可能になってくるでしょうか。


竹内薫氏: どうですかね。宇宙ステーションの中で、ネット環境がどうなっているかわかりませんが、いずれはそうなると思います。

―― 宇宙から見る地球の醍醐味があると思いますが、宇宙での読書の醍醐味というのも、話の話題として今後出てきそうですよね。宇宙空間ではこういう本を読んだ、みたいな。(笑)


竹内薫氏: あははは、宇宙で、無重力状態で読む。

―― 宇宙で読むべき~みたいな(笑)


竹内薫氏: いや面白いのではないでしょうか、それ。

(聞き手:沖中幸太郎)

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