日本精神こそが世界を救う
「日本の素晴らしさを世界に」――自身の経営するカフェ「KICK BACK CAFE」をベースに、ミュージシャン、カウンセラー、作家と幅広い領域に様々な立場で問題にアプローチする石井希尚さん。音楽活動では、福音を伝えるゴスペルバンド「HEAVENESE(へヴニーズ)」のリーダー“マレ”として、和の心を紛争地エルサレムなど世界各地から発信されています。その強い想いの源、今伝えたいこととは。
大和魂を世界に
――様々なアプローチで、日本の魅力発信に取り組まれています。
石井希尚氏: ゴスペルユニット『HEAVENESE』のリードボーカル&ピアノ“マレ”として活動しています。『HEAVENESE』は天国、日本人が合わさった造語で、異質なものを受容し、和を保つことこそが尊いと教えられてきた「大和心」を世界に伝えるべく、2011年の米国ツアーを皮切りに、日本と世界を舞台に活動しています。
『HEAVENESE』は、九度のグラミー賞受賞を果たしたゴスペル界のキング、アンドレ・クラウチ(故人)が唯一プロデュースを手がけてくれた一座です。彼とは、友人のプロデューサーを介して95年に来日した際に、ここ調布市仙川にあるキックバックカフェ(以下KBC)に来てくれたことがきっかけで意気投合して、その年の秋から音楽制作を始めました。そんな彼の遺志も引き継いでいます。
メンバーは、ツインボーカルのマレ(ぼく)&クミコを中心に、ドラム、ベース、キーボード、サックスなどの洋楽器に、尺八、篠笛、和太鼓、津軽三味線などの和楽器を加えた、十数名を超えるメンバーで構成されています。さらに殺陣や忍者、在米黒人ラッパーやダンサーが加わるなど、日本の魂と、HIPHOP、R&Bが融合する壮大なステージとなっています。
最近では、キング牧師を描いた映画『グローリー 明日への行進』(2015年6月19日より日本公開)の特別先行試写会をKBCで行い、その際のミニライブでは、本年度アカデミー賞主題歌賞に輝いたコモン&ジョン・レジェンド「Glory」のカヴァーを初披露しました。様々な活動の拠点となるここKBCには、こういったイベントの参加者だけでなく、ぼくの読者やカウンセリングのクライアントなど、多くの人々が訪ねてきてくれます。カップルを対象にしているのですが、人生や今後の進路について悩んでいる人など、様々な人が集まってきますね。
――今まで、多くの人々の悩みや問題に取り組んでこられました。
石井希尚氏: ぼくが世の中に対して最初に行動を起こしたのは16歳、高校生の頃でした。既存の教育システムに対する違和感からでした。東京三鷹市の明星(みょうじょう)学園は小学校から高校まで12年の一貫教育で、「個性尊重、点数のない教育」は日本中の教育関係者が見学にくるほどでした。ところがそんな明星学園が、点数重視の受験体制の方向へと進み、退学者が出るなど混乱しました。この問題を解決するため、教育の根本を問いただす運動を展開しました。デモやハンストなどの結果、最終的に友人らの退学処分を見直すところまで持ち込みました。
ぼくはその活動のあと、「16歳の自分が考えていること」というレポートを書いて「自分は、若者の精神革命を起こすために生きている」というような内容を親父に渡します。親父は士族の出で教育にことさら厳しく、例えば敬語を使わなければ「鉄拳制裁」と称しての、お尻たたき(笑)。先に食事を済ませていれば、ひと言「お先に頂きました」と言わなければならないなど、昨今の“親しみ”のある父親像とは、かけ離れたものでした。
これは、のちに母から聞いたのですが、親父は「礼儀や挨拶の大切さは大人になってから分かる。今は子どもたちに好かれなくてもいい。それが父親の務めだ」と話していたそうです。気難しい人でしたが、ブレない姿勢や、強い愛国心、日本人としての健全なプライドを持っていたのだな、と。今では、本当に父に感謝しています。16歳で例のレポートを渡すと、親父から「20歳になるまでは面倒をみてやる。それ以降は勝手にやれ」と言われ、自主退学をして、寺子屋学園を作ることになりました。
――反対されなかったのですね。
石井希尚氏: 一切文句は出てきませんでした。「考え方や生き方が自分に一番似ていたから、親父も応援したかったのではないか」とのちに、家族から言われましたね。
「愛」と「罪」を知って
石井希尚氏: ぼくの姉は現在、ドイツでピアニストをやっていますが、ぼく自身も子どもの時からクラシックピアノを習っていました。近所に住んでいた、桐朋学園大学出身の、有名なレッスンプロに師事していました。レッスンの場には、N響や、クラシック業界の偉い人がたくさんいました。ロックに目覚めて、エレキギターを始めた12歳のころは、社会に対する思いや反動を音楽にぶつけていました。作曲家で俳優の内田良平さんから、詩を渡されて作曲の依頼を受けたこともあります。それは「ゴキブリ」という曲名で、コンテストで優勝しました。
ぼくの牧師としての活動のきっかけである神との出会いは、当時つきあっていた彼女の看病をする中で起こりました。当時、病気がちの彼女の入院費を稼ぐため、音楽でのデビューはいったん諦め、完全歩合のセールスの世界に入ることにしました。「名刺を見たら見込み客だと思え」と言われていたので、当時のぼくは名刺を見たり、人と会うと“11万1400円だ”と思っていました(笑)。そうやって「彼女のためだ」と働いていたら、あっという間にトップセールスマンに。20歳で月給が額面で100万円を超えるまでになりました。
――努力によって希望の光が見えてきました。
石井希尚氏: ところが彼女はまた入院して面会謝絶になりました。唯一信じることができたのは“自分の力”と“彼女の存在”だけでしたが、自分の力すら信じられなくなりトップセールスから、底辺へとまっさかさまに転がりました。
ある日、ぼくの変化に気づいた上司から呼ばれました。「男なら人前で泣くな。」という親父の教えを破るほど、落ち込むぼくに「祈り」を勧めてきました。ぼくはそれまで教会に行ったことも聖書を読んだこともなく、最初は半信半疑でしたが、目に見えない何かを本気で信じて、ぼくのために祈り続ける彼の姿を見て何かを感じました。「主イエスよ!今、心にきてください、アーメン」と彼の祈りに続いた時、自分の中に何かが降ってきたのを感じました。まさに“神との遭遇”で、一番神聖な体験でした。
その瞬間、親父のことや、学生運動以来の重荷や、彼女の病気のことなど、色々なことが全部、流れて、生まれ変わっていくのを感じました。さらに、奇跡は続きます。彼女の体が動くようになったという知らせが届きました。ちょうど祈っていた同時刻だったそうです。ところが神を信じた翌日に、彼女から破局を伝えられます。
教会で丁稚奉公を始めた翌年、彼女が亡くなったという知らせが届きました。遺影の下に座り、嗚咽しながら自分の「罪」を意識しました。「彼女を幸せにする」と言い続けていましたが、心のベールを一枚一枚剥いでいくと、それは“愛”ではなく“エゴ”だったのです。彼女の死を受け止めることにより、“キリストの十字架”の意味がハッキリとわかりました。本当の愛というのは、十字架の上でズタボロになりながらも呪いの言葉を一つもかけずに、「父よ、彼らを赦したまえ」と祈ったような、一点の曇りもない、ただ与えるだけの愛。キリストの命と引き換えに愛が現れたというのが、聖書のメッセージなのです。「神は人間を裁かない。許しているんだ。これが十字架の愛なのだな」ということをリアルに感じました。これを自分が世の中に伝えなければいけない、と強く思いました。
「愛」とはなにか。渡米して牧師になったぼくは、その問いと答え、聖書のメッセージを様々な形で、伝えることにしました。カウンセラーとして様々なメディアへ、発言を求められたり、また作家活動を通して、メッセージを伝えています。
健全な自尊心を育む
――『この人と結婚していいの』(新潮文庫)は、20万部に。
石井希尚氏: おかげさまで、多くの人々に届きました。こうした活動を通して、ぼくもまわりも少しずつ、進化してきたように思います。音楽もゴスペル“福音”として,『HEAVENESE』につながっていきました。ぼくは自己否定的な音楽はあまり好きではありません。自己肯定できない限り、宗教も信仰も何の役にも立ちません。今の日本の若者たちはみな、危機的なアイデンティティー・クライシスに陥っています。他国では当然の「自らの国を誇りに思う」ということが、戦後教育体制を未だに引きずったこの国では、出来ていないのです。
「日本人であることに誇りを持つことが許されない」――こうした自己矛盾は人間の精神の崩壊を招きます。こんなに“豊かないい国”だと世界から思われているのに、自殺者が年間3万人を超えるのは、どれだけ精神が病んでいるかという証拠にほかなりません。この現状をなんとかして変えたいのです。自分の存在そのものに、健全な誇りとプライドを持つしかありません。「日本人」ということに絶対的な誇りとプライドを持つことができれば、「日本人だから頑張れる」という揺るぎのない自信につながります。
――その愛国心は他国の尊重につながる、と。
石井希尚氏: ぼくは偏狭な民族主義や差別、戦争には反対です。大切にしたい歴史・伝統の中にも見直されるべきこともあるし、ときには戦わなくてはいけないこともあるかと思います。自国や自分に誇りとプライドを持てない人は、他人にもそういったものを持つことができません。自国を愛することは、他国を犯すことではありません。むしろ、反戦の精神です。牧師であるぼくにとって、右も左も関係ありません。聖書という土台の上に立ち、保守とリベラル、民族を超えた世界への懸け橋となって、日本の魅力を発信し続けたいと思います。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 石井希尚 』