時代に打ち勝つ投資
「株式会社アセットマネジメントあさくら」の代表を務める経済アナリストの朝倉慶さん。ラジオ「朝倉慶の株式フライデー」などで経済情報の配信をするほか、各地で講演を行っています。このほど『失速する世界経済と日本を襲う円安インフレ』(ビジネス社)を出版された朝倉さんに、書くことで生じた気持ちの変化、勝負の世界に生きる率直な想い、今感じている事を伺ってきました。
勝負の世界に生きて
――朝倉さんのお仕事について伺います。
朝倉慶氏: お客様と証券会社の間に立つのが我々、証券仲介業です。SBI証券、楽天証券と提携していますが、対面の証券会社とネット証券会社の良い所を活かしています。特色としては「朝倉慶」の情報を直接みなさんにお話しでき、アドバイスできることです。また、『夕刊フジ』の『株1グランプリ』で現在トップになっている芥川達男、同じくトップを走った長谷川伸一など、株に精通したスタッフを据えています。スペシャリストの集まりなのに、証券会社と手数料が同じだから、こっちの方がずっといいですよという感じです(笑)。
――勝負の世界で生きていこうと思われたのは。
朝倉慶氏: 麻雀は高校から。大学時代はもっぱら、ポーカー、競馬、将棋。あらゆる勝負事をやってきました。その中で相場もやっていて、株の急騰と乱降下を経験し、「株式相場が一番面白い」と感じました。それでその世界にのめり込んで、一生懸命勉強したのが始まりでした。
――最初の就職先は、それを活かして。
朝倉慶氏: 証券会社で働きました。ただ仕事をしていくうちに、自分の考える顧客主義と会社の方針との間に溝が生じ、葛藤が生まれました。他のセールスもそうですが、自分がいいと思っているものなら、一生懸命売ることはできますが、自分が良くないと思っていたら売れないんです。相場が好きだったので、仕事自体は面白いのですが、とにかくそこに縛られることがイヤで仕方がなくなり、3年もしないうちに飛び出してしまったんです。
転機となった、船井幸雄との出会い
――『株式投資に答えがある』という本にも詳しく書かれています。
朝倉慶氏: ええ、そこからが本当の始まりだったように思います。相場をやっていると一種の虚無感と言うか、実感として得るものがあまりない。今だから言えますが、当時の私は「相場で勝っている」という表面だけを見て、どの会社のトップも馬鹿に見えていました。今振り返ると、人間の生き方としては成長が止まっていましたね。
――どのようにして、転機が訪れたのでしょう
朝倉慶氏: 2007年に、船井幸雄先生と会う機会がありまして、「レポートを書け」と言われました。翌2008年には世界の株式市場が間違いなく暴落するということは、もう自分の中では100%の確信がありました。そのことを先生に話していたところで、リーマンショックが起きました。「本を書きなさい」と言われたのが執筆の始まりで、私の転機でもありました。自分だけのためではなく、「誰かのために書く」。船井幸雄先生と出会ってから変わりました。昔の私を知っている人間は、驚いていますよね。
人のために何かをやることで「やりがい」が生まれる
――「書く」ことで、どんな変化が生じましたか。
朝倉慶氏: 自分の能力が認められて、周りもそれを必要としてくれる。やはり「やりがい」というものを感じます。それまでは楽に食えるというぐらいの小さな世界とは大きな違いです。公式サイトにて「注目ニュース、朝倉慶が切る」という情報を書いていますが、こちらも多くの人に読まれていて、大きな励みとなっています。
――投資に対するお考えは、本だけでなく各地でおこなわれる講演でも話されています。
朝倉慶氏: 私は、世の中の人が、なんで「国債が暴落しないのかな」と思わないのかがわからないのです。90年当時のバブル崩壊時も、2007年に相場が動いた時も、それが不思議でした。今回の国債の暴落もですが、金利が3%になったら利払いだけでおしまい。1000兆円というお金をまともに返せるわけがありません。しかし、なぜそれが返せると考え、返すようにしなければならないという風に頑張ったりするのか。これから人口は減ってくるので経常収支も赤字ですし、円安もこの動きなので、最後は金利が上がって日本経済、国債暴落、ガタガタになってインフレになるという結果は明らかです。私には、みんなが「裸の王様は裸じゃない」と言っているように思えます。だから私は、言わなければならないことは、全面的に主張しようと。
時代の節目には、必ず典型的な勝者と敗者が出ます。明治維新の時も同じで、坂本龍馬は「世の中が変わる。大変な変化が起こる」と言った時、みんなは「そんな馬鹿な」という感じだったと思いますよ。国債が返済できなくなり、おそらくインフレになるのですが、それも劇的な変化となるはずです。その時に生き残るには、信念がなければいけません。信念を持っている誰かがリード役になり、乗り切る。その人たちが、次の時代を作る重要な人物になっていくのです。この大変化の中で、経済的に生き残ることができる人を作る必要があると思っています。
世界の見本となる日本
――日本は課題先進国、などとも言われていますが。
朝倉慶氏: ウクライナ情勢やその他の紛争など、色々な対立軸の問題などもそうですが、あまり深く対立していくと、全体的に滅びてしまうのではないかと思うのです。明治維新は、諸外国の歴史を見ていても稀なことで、日本だけが、大変革に対して、最小の犠牲で成し遂げてきたという歴史があります。
バブルが崩壊しても暴動は起きず、地震が起きても助け合いの精神でやれる。原発の事故も、他の国だったら対応不能になっていた可能性もあります。ここまで日本人が悲劇的な経験をしているというのも、必然性があるように私は思うのです。それに上手く対応できるというのが日本人の力です。
これから国債の暴落による大混乱が世界で起きてしまうと思っていますが、その時も、日本が混乱なく乗り越えることができる素地を持っているということを世界に示すことができるかもしれません。今後起きるであろう経済混乱においても、ソフトランディングできる、つまり志を持った人が乗り切ることによって日本全体が上手く対応できれば、それをメッセージとして世界に伝えられるのではないかなと思っています。
――日本の対応が世界の見本になる、と。
朝倉慶氏: 日本人はおそらく1000兆円の国債がインフレになった時、大混乱でどうしようもなくなってしまうと思うのです。ヘッジファンドの人たちが来て、全部奪い取られ、全部海外に持っていかれるかもしれない。言うことを聞いていたら全部やられてしまう。そこで日本人の有識者何人かが、大きな富を得ることで、それを国内に還元する、ないしは色々と発信することで、悲劇的な状態を乗りこえられれば、それは1つの経済的な混乱の対応の仕方というか、こういう風に対処できましたという見本になりますよね。地震の時と同様、そういうものが必要なのではないかと思います。
――時代に打ち勝つ投資が必要だと。
朝倉慶氏: 資産価値がなくなる時に、資産価値のベースを残せる方々を作っていくことです。そういう人たちが次の時代を作れる方々だと思いますし、勝つ方々が、志を持っていなければダメ。そういう人たちが、経済的な力を得ることによって、新しい社会を作ることができるのです。
私は50を過ぎて朝から晩まで勉強しなきゃいけないような勉強三昧の生活になりました。でもこれも1つの人生。これもいいなと私は思っています。今まで努力してこなかったのが色々やれるようになって、世の中のために何か出来るというのは、自分で言うのもおかしいけれど本当に素晴らしい、ラッキーなことだなと思っています。だからそれに感謝して、力の限りやっていきたいですね。
――「朝倉慶」としてどのような事を伝えていきたいですか。
朝倉慶氏: 経済、相場などの話をする人はみな、私とは違いエリートです。日銀にしても経済評論家にしても、経済のアナリストと呼ばれる人たち全員、ほぼエリートです。今、世界経済は、ギャンブル経済のようになっています。日本のお金もどんどんアメリカに流れていますが、そういう世界は相場のプロが仕切っています。ヘッジファンドも、ポーカーゲームの勝者からハンティングしたりしているのです。面白いからという意識で相場をやってしまう、そういう人間臭さやその辺りの感覚、相場の世界や心理、動きというのはエリートの人には、なかなかわからない。
経済は生き物なので、次から次へと動いていきます。ですから、その個々の情勢というのを細かく発信しないといけません。浮き沈みがあり、当たったり外れたりはするのですが、できる限り正確な情勢を伝える必要があります。私は、自分の経歴を強みにして違った視点で伝えていけると思っています。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 朝倉慶 』