春日武彦

Profile

1951年、京都府生まれ。 日本医科大学医学部卒業、同大学院衛生学科修了。医学博士。精神科専門医。 産婦人科医を経て精神科医に転向、東京都立松沢病院精神科部長、東京都立墨東病院神経科部長、東京未来大学教授等を経て現在も臨床に携わる。 著書に『秘密と友情』(共著。新潮社)、『「キモさ」の解剖室』(イースト・プレス)、『様子を見ましょう、死が訪れるまで』(幻冬舎)、『病んだ家族、散乱した室内』(医学書院)など、心理学に関するエッセイや小説多数。

Book Information

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「ムダ」が豊かさや奥行きを生む



精神科医の春日武彦さん。「読書とは言葉を使って内面を上手く語る練習、あるいは見本を探す行為だった」と語る春日さんに、「本」について、執筆に込められた想いを伺ってきました。

精神科医という仕事


――お仕事について伺います。


春日武彦氏: 週3日、病院で外来患者を診ています。診察日以外は、講演で全国に出かけています。精神科医の仕事は苦労もありますが、色々学ぶことができて、「こういうこともあるんだな」と、素朴な驚きもあって、やりがいのあるものですよ。

――どのように患者と接していますか。


春日武彦氏: 患者さんにとっては、病院に行くことを決心するだけでも一大事です。本人は「どうしたらいいのだろう、もう病院に行くしかない」と、覚悟を決めてくる。だから、腹をくくって病院に行くことを決心したという部分をまず労って、それからやっと「ここから始めよう」と診療は始まります。たいていの場合、悩みがあっても悶々としているだけで、実際には動けない。少々酒を飲んで、愚痴をこぼすぐらいです。病院まで来たというのは、「余程あれこれ悩んだのだろう」ということを理解しないといけません。

――相手の立場に立つというのがこれほど重要な仕事は無いかもしれません。


春日武彦氏: しかし、優しければいいとは限りません。「多少横柄でも、偉そうな人のほうが、頼りがいがあっていい」という方もいますし、あんまり丁寧に説明されると「自信がない証拠だ」と思う人もいます。色々な考え方がありますから、そういう意味ではマッチング、相性の合う医師との出会いがあるかどうかというのは大変重要になってきます。

――どうしてこの仕事を選ばれたのですか。


春日武彦氏: 元々父が外科医をしていたのですが、途中から保健所に務めて、その後は厚生省、環境省、最終的には東海大医学部で教授をしていました。親戚などにも医者が多かったので、そうするとなんとなく医者になるんですよね。私は1人っ子で、ぜんそく持ち。周りと接する機会が少なく、社会性に乏しい子供でした。医学部に進みましたから、アルバイトをしたことも一度も無いし、経験を通して普通を知るというようなこともありませんでした。一般的な社会での経験から得られるような、共感覚が足りない部分があるのです。ですから未だに、いわゆる「普通」の感覚がよく分からないことがあります。

ただ、他人だからこそ、状況を冷静に吟味することができるという場合もあります。自分なりの経験から推測して、辛さはどういったものか見当をつけます。「それじゃ生ぬるい」と言われるのは百も承知だけれども、こちらも一緒に苦しんでいたら何もできませんから。

活字化、されることの意味


――医学部時代はどんな生活をしていたんですか。


春日武彦氏: それはもう、暗いもんですよ(笑)。勉強以外は、本を読むか、音楽を聴いているか、どちらかでしたね。それから絵も好きで、銅版画などを作ったりもしていました。版画は、ある意味印刷物です。未だに、レッテルやコースター、チラシなどの紙の印刷物が、本の延長という感じで好きなのです。肉筆だと、クライマックスで急に字が大きくなったり、肉太になったりということがありそうで、嫌なのです。情が入り過ぎてね。一度、印刷という形式を経ることによって、ある程度の個性を抜くというところが好きです。

本も、文章を書くだけではなく、編集者や装丁家などを介して、ある程度ろ過されて世に出ますよね。活字というのは、形式で見れば無個性です。好みとして、生々しさをある程度抜いていないとちょっと嫌だなという思いがあります。物体としての本にはこだわりがありますが、無個性である部分も同時に好きなのです。

活字、紙、装丁などを含めて、本が好きなのです。それに装丁は、本を出す時の楽しみの1つですから、新書はあまり好きではないんです。私の本の装丁は、凝っているものが多いです。装丁にこだわると、編集者に嫌な顔をされてしまうこともありますが (笑)。

――電子書籍などは、春日先生にとってどういった存在ですか。


春日武彦氏: そこはなかなか微妙なところですね。便利な部分は確かにあるだろうと、例えば何冊分も持ち運ぶことができるから旅行にはいいだろうと思っています。ただ、装丁については引っ掛かりますね。だから、仮に自分の持っている本を電子書籍的なものに変えるとしたら、単行本よりも雑誌を電子化したいです。雑誌の場合、気になる記事があると、なんとなくとっておくことが多いのです。場所をとりますし、背が高かったりするので、そういうものをとりあえずデータとして取り込んでおくといいのではないかという気はしています。背表紙を見ながら考えるということが多いので、単行本についてはやっぱり物体として確保しておきたい。ただ、雑誌まではいちいち読み返せないので、パラパラ見るという意味では、電子媒体にしても全然かまわないという思いはあります。

物によっては、本は本で確保しておいて、時々読み返す時は電子媒体で、なんていうのもありですよね。そうすれば、出先でも見たい時に見られますから。

著書一覧『 春日武彦

この著者のタグ: 『海外』 『心理学』 『考え方』 『生き方』 『アドバイス』 『可能性』 『紙』 『こだわり』 『医師』 『歴史』 『人生』 『雑誌』 『エッセイ』 『装丁』 『医者』 『アルバイト』 『書き方』 『医学部』

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