飛岡健

Profile

1944年、東京都生まれ。防衛大学校航空工学専攻卒業。東京大学大学院工学系研究科博士課程(航空工学)修了。東京大学航空宇宙研究所にてロケット・人工衛星の打ち上げ、研究に従事した後、哲学、社会学、経済学、心理学、生物学を進め、88年に現代人間科学研究所を設立。(現在「人間と科学の研究所」)技術、マーケット等の未来予測及び多くの企業の経営戦略の作成を専門とし、政府や地方自治体及び民間企業からの委託研究を行う。 著書は115冊を超え、『3の思考法』(ごま書房)、『“逆”思考の頭をもちなさい』(河出書房新社)、『ものの見方、考え方、表し方』(実務教育出版) 『哲学者たちは何を知りたかったの ?』(河出書房新社)など。

Book Information

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危機感に遭遇した時が「チャンス」


――『ものの見方・考え方・表し方』という本を書かれていますが、この3つをとても重要視されているようですね。


飛岡健氏: この本は今、全国の図書館に入っていて、試験問題や教科書に使っていただいているのですが、その3つのバランスを保つ事は一番重要なことです。あたかも音響システムの如く、音源からの読み出し、プレーヤー、アンプ、スピーカーの精度が揃っていないと、一番悪い所の精度に全体がなってしまうのです。そして、ものの見方や考え方、表し方を理解するためには哲学が必要です。少し話しがかわりますが、人間研究をしていると分かるのですが、人間が自発的に動く要因は3つしかありません。1つは志を持つこと。2つ目は「これをやらなければ死んでしまう」という「危機感」を持つこと。3つ目は、楽しい、儲かる、おもしろいなどの「実利感」があるということです。その1つ1つに関して重要なのは、感動・感謝・感激です。感動・感謝・感激をすると、人は「使命感」を持ちます。哲学者である西田幾多郎先生は、「日本海に夕日が落ちていく時に受けた感動、それを文字化したのが私の哲学である」と言っておられます。そういう自然の持つ感動や、あるいは野口英世氏が手をやけどした時、それをお医者さんが切開して治したことに感動、感謝し、医学の世界に入っていくわけですが、そういった原点としての感動・感謝・感激があってこそ、使命感が生まれてくるのです。あと、「食べる物がないと死んじゃうよ」となれば、人間は必死になりますよね(笑)。だから、危機感に遭遇するということも非常に重要なのです。

――危機感を力にかえるのですか?


飛岡健氏: 実は今、私の生み出してきたものなどを、色々な人が悪いことに利用してくれて、ビジネス的にも厳しい状況にあるのですが、逆にこういう時がチャンスだと思っています。ピンチはチャンス。そう思う為に「苦しみを楽しんでしまう」というエピクロス的知的快楽主義が大切なのです。話しは少し変わりますが、「この世はあの世への話題作りの場」と考えると、この世は楽しくなります。私があの世に行ったら、「お前、あの時のことを聞かせてくれ」と、たくさんの人が寄ってくるだろうと思うので、この世はあの世への話題作りの場のような感じでもあります(笑)。そうは言っても、あの世が本当にあるかどうかは、あまり信じていないので、「色々なことを楽しく経験しよう」という気持ちでいます。そう考えたら苦しみも喜びも一緒なのです。

――本の出版の際には、編集者とやり取りをすることも多いと思いますが、編集者の役割についてはどのようにお考えでしょうか?


飛岡健氏: 今は、色々なレベルの編集者がいますよね。昔の編集者は編集者として勉強した上で直感的に著者を発見する能力を持っていました。今の編集者はそうではなく、でき上がった人に発注するケースが多いです。そういう意味合いで言うと、自分以上の能力の人を見出すことができないでしょう。昔は、編集長35歳説という、「35歳以上になると、既存の知識の中に埋没してしまって、発掘能力がなくなる」という考え方がありました。編集者にとって一番重要な能力というのは、今でも変わらず「書き手の発掘」だと私は思っています。それをほとんどやらず、テレビ媒体で知られている人などばかりになってしまっています。自分の分かるものを著者に書かせようとしたら、大した本にはならないような気がします。そこが、私が「努力が足りないかな」と思うところです。編集者というのは字の通り、「編む」、「集める」わけであって、自分で知識を作る人ではないのです。世の中にある知識や情報をというものを生み出すのは、あくまでも作家や研究者や専門家。それらの人々の能力を見極める直感的な力があるかないかというのが、編集者にとって一番重要なわけですよね。

――そういった編集者の問題点は、徐々に出版業界全体に影響を与えるのでは?


飛岡健氏: そうですね。色々なマスメディアの社長が集まった会合で話しをする機会をもらった時に、出版業界がダメになる理由について話しました。それは読者にやさしくて書き手に厳しいということ。「もっと易しく書け」と言ってばかりいると、言葉がどんどんイージーになり、単純化していきます。でも我々の先祖たちは、これほどたくさんの文字に「概念」を与えてきたのです。そういう難解なものをフル活用しながら伝えていくということが本当は重要なのに、「内容を理解するには、読者の勉強が必要だよ」という啓蒙運動はやってこなかったのです。それが、現代の「古典離れ」を起こしているのです。古典というのは、出版社にとってみると本当は経営のベースなのだから。それが売れなくなってしまうということは将来的な経営の土台がなくなるということです。私の言葉で言えば、ジャーナリズムではなくてセンセーショナリズム。センセーションを起こせばいいという感じになっています。本に限らず、あらゆるメディアにおいても1つのテーマをずっと追いかけて報道していくという、ジャーナリストの本来の精神が壊れているような気がします。

文明の利器は社会を変え、若い世代のノーベル賞受賞者も生む


――電子書籍という媒体も出て、電子化が進んでいます。どういった時代になると思われますか?


飛岡健氏: 私たちが大学院の頃、NASA(当時はNAKA)のレポートを見るのは、一番偉い先生から順番に見ていくので、大学院の学生や学部の学生が見られるのは、2、3年先でした。教える側に情報が独占されていたわけです。ところが今は、NASAのホームページを開けば誰でも見ることができるといった、「情報の共有化」が起こっているのです。それを可能にしたのは、モバイルの様々な情報機器ですよね。もう1つ我々が注意しなきゃいけないのは、小学校に入るまでの情報量と、小学校から大学で教えられる情報量とは、前者の方が大きいということ。しかも今は、携帯で毎日のようにメールをしているから、歴史の中においてこれだけ多くの日本人が文章をたくさん作っている時代はありません。ヘーゲルの言葉で「量的増大は質的転換を来す」という言葉がありますが、そういう情報環境に生きている人の中から、とてつもない天才が生まれてくる可能性はとても高いのです。そうすると、20代前後で芥川賞、ノーベル賞などをもらう人が出てくるでしょう。量的にみんながやり出すと、質的な変革が起こってくる。そういうことが確実に今起こっているのです。文明の利器が出てきて情報環境が共有されるようになったことが、大きく社会を変えていくと思います。今は第三次産業革命のまっただ中で、一次産業にしても二次産業でもそうだったように、産業だけではなく生活様式、政治、経済など、世の中の全てを変えてしまう。情報産業革命によって、社会全体が変わろうとしているのです。2020年の段階においては、楽天やGoogle、DeNAなどの情報会社ではなく普通の会社でも、労働者の半分くらいは情報関連の仕事をするようになっていると思います。

――飛岡さんが、これからも伝えていきたいと思われることとは?


飛岡健氏: 一番重要なのは、先読み、深読み、それから本質読みという、「本質を読む」ということです。私が先をどうやって見るかとか、どういう風に注意深く物を見ていくかなど、その見方をみなさんに教えるのが私の仕事だろうと思っています。その為に未来予測研究会を三十年以上主宰してきました。未来予測に関しては、100%正しく読めるというものは、絶対にありえません。要するに、AさんとBさんのどちらが正しく読んだか、A国とB国という2つの国のどちらが正しく読んだかということの競争なのです。主体的努力をすることによって、より正しく読んだ人が勝者になっていくということ。つまり相対的なものの見方でしかないのです。物事に誤謬性があるということが実は無謬(理論や判断に間違いがないこと)なのです。ですから不確実性ということが確実性ということ。相対性と絶対性や、誤謬性と無謬性、不確実性の確実性、不確定性の確定性。そういう見方が非常に重要だと私は思います。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 飛岡健

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