変わったことをするのが好き
――子供の頃、夢中になったものはありますか?
八代尚宏氏: ちょうど、早川書房のSFマガジンが刊行された頃で、日本の伝統的な文学よりは、専らSFを読んでいましたね。子供の頃は、とにかく何か変わったことをやってみるのが好きでした。それは経済学でも大事なこと。経済学の手法は、何にでも当てはまるということなのです。
――経済企画庁在職中に米国メリーランド大学に行かれていますね。
八代尚宏氏: メリーランドへ行った時は、当時、日本ではあまりやらなかった社会問題の経済学、アメリカの社会保障や労働問題などを学び、非常に面白かったです。
通常、経済企画庁だと金融や財政政策などを学ぶのですが、私は少し外れて、貧困や差別などの珍しい分野を学びました。特に差別の経済学は、アメリカでは深刻な問題だったのです。
――先生は色々な所にアンテナをお持ちですが、今後何か書きたい本はありますか?
八代尚宏氏: 引退したらぜひ小説を書きたいと思っています。大事なことは、小説の中にメッセージが強烈にあること。小説で世の中を動かせたらすごいなと思っています。
――執筆についてお聞きしたいのですが、出版の際は、編集者の方から意見をいただくことも多いのでしょうか?
八代尚宏氏: 自分が書きたくて書いた本もありますが、編集者から「こうした本を書け」と言われて書き、結果的に良かった本もいくつかありました。著者が面白いと思っても読者が面白いと思うかどうかは分かりません。ですから、編集者と上手くコラボレーションできると良いものができるのです。編集者はこちらの力を引き出してくれますが、そのセンスはすごいなと思います。そういう意味では、編集者が明確な主張を持っていて、著者はそれに導かれていくといった競馬の騎手と馬のような関係だといいですね。
また、私は常に自分が読みたい本を、編集者との共同作業で作ります。以前、アメリカで出版したことがあるのですが、その時の編集者は、自分の理解できないことは書かせないという方でした。英語の問題もありましたが、それ以前に中身について、全面的に注文をつけられました。大変でしたが、やはり編集者は読者の代表だということ。言ってもらうとこちらも楽です。そういう意味で、編集者とのインターアクションはすごく大事だと思います。
――編集者の言う注文に、納得できないこともあるのではないですか?
八代尚宏氏: 私は、大学はサービス産業だと思っています。生徒が分からないと「何で分からないんだ」と怒る先生もいますが、生徒はお客様です。授業に出ていても分からないのであれば、分かるようにするのは教師の責任。それは本でも同じことだと思います。お客様の代表である編集者の注文には答えなければいけない。注文に応えることで、こちらも進化するのです。私は官庁出身ですが、役人は素人の政治家に分かりやすい説明をしなければいけません。そういった訓練も受けてきました。どこに顧客のニーズがあるかを正しくつかめれば、ほとんどが上手く行きます。