城繁幸氏: いえ。知らなかったです。ただ電子出版って結構大きな動きのあるところなので、これからどんどん出てくる気はしますけどね。
――今電子書籍は、ご自身ではどのように使われていますか。
城繁幸氏: 僕は持っていないですね。基本的には紙ですべて。
――紙に対するこだわりというものはありますか。
城繁幸氏: 単純に紙のほうが見やすいんですよね。今のところ、現時点での技術水準で言うと。なので特に電子媒体を買う意味がないという感じですね。逆に言うとほとんどの人がそうだと思うんですよ。紙よりもこれだけ便利ですよとちゃんと示さないと、僕は絶対普及しないと思っているので。極端な話、規格がいっぱいあるのが問題なんですね。EPUBならEPUBでいいんだけれども一つにしたうえで、でもAmazonからiPadから全部基本的にこれで読めますよという規格が出来て、Amazonブックストアでも楽天ブックストアでもワンクリックで買えるような状態になって、なおかつちょっと安いとか。あるいは、定額制でいくつかの雑誌が読めますよというような感じ。
――利便性としてはどこでも同じものが読めるということがあります。例えば通勤電車の中でもいわゆるクラウド化してどこでも取り出して読めるというところなどですね。そういった利便性を活用したいと思う状況はありますか。
城繁幸氏: 僕は逆に言うと、機器の技術水準に全然期待していないんですよ。あとクラウドにも僕は全然期待はしていなくて。電車の中だとか移動中に読みたいとは思わないから。
――なるほど。本はゆっくり読みたいですか。
城繁幸氏: ゆっくり読みたい派なので、機器もそんなに技術的にこだわっていなくて。僕が唯一期待しているのは、データベース化してほしいというところですね。
――データベースですか。
城繁幸氏: 何か興味があるキーワードがあるとしますよね。例えば、お酒。スコッチで言ったらラフロイグとかね。ラフロイグっておいしそうだな。ラフロイグについて研究している本はどのようなものがあるのだろうか?と思った時に。今、タイトルだったらできますよね?だけど、そうではなくて、本の中で取り上げられている記事とかエッセイのレベルでも、タイトルに入っていない言葉でも検索できるような、それはデータベース化していないと無理だと思うんですね。タグだけでもたぶん無理で、全文書をある程度取り込んでいないと無理だと思うんですよね。
――いわゆるテキスト・OCRされていたら、気になる単語を取り扱ったテーマがわかりますよね。その中でラフロイグのことについて書かれていたら、その部分だけ読めますね。
城繁幸氏: そうですね。
――そういった意味で、電子書籍の利便性と機器というよりは、データベース面での技術が図られたらいいなというところですね。
城繁幸氏: タイトルとかから検索をするしかないんですよね。あとは個人が教養として莫大な読書量、データベース化を頭でしておいて、自分でそれを引っ張るしかないわけで、それを代行してくれる機能を僕は期待しているんですよ。特定の人物、政治家でも俳優さんでも女優さんでもいいけれど、調べたい言葉を調べるとその言葉にマッチする書籍がバーっと出ると。実際そういう調べ方をする機会というのは結構多いので、この人物について言及しているあの本なんだっけな、という時にすぐ調べられるようにといったようなことをやってほしいというのはありますよね。
――そういったものが参考資料として本を執筆されるときに役立ちますか。
城繁幸氏: すごく必要です。
――1冊の本を仕上げるのに大体どれくらいの参考文献を調べたりしていらっしゃいますか。
城繁幸氏: ピンキリだけれども、やはり10冊から20冊ですよね。
――中には、必要箇所だけを読む場合もありますか。
城繁幸氏: 直接必要なだけで、あと肥やしになっているっていうのも言うと何倍かになると思うのだけれども。ただやっぱり読んでないと自分で使えないんで。だけどこれだけ出版件数が増えてくると、全部は自分のデータベースだけではどうにもなんないんですよ。そういった機能を電子に期待しているんですけどね。
――OCR化することで検索ができたとしたら執筆スタイルというのは変わってくると思いますか。
城繁幸氏: 変わりますね。厚みが増してくると思いますよ。自分の使っているデーターベースの何十倍にもなるわけだから、仮にほとんどの書籍がある程度テキストでデーターベース化されればですよね。ただ、それはテキスト化して別に売らなくてもいいんです、中でためておいてくれれば。検索して検索結果だけ投げてくれればこっちは買うからいいんですよ。
――ところで、最近読まれた本はありますか。
城繁幸氏: なんだろうね。いろいろ読んでますけどね。
――月に大体どのくらい読まれるんですか。
城繁幸氏: 波はありますね。大体平均すると5~6冊ぐらい。
――どういった本を読まれるんですか。
城繁幸氏: 仕事に関係あるもの中心ですよね。そうじゃないのは2か月に1冊くらい。娯楽としてという感じですよね。半分以上は、仕事を兼ねてますよね。
――内容は、就職関連などの仕事に沿った内容になるんですか。
城繁幸氏: 就職って意外と少ないんですけどね、雇用とか社会保障とかそっちのほうですね。
――電子書籍の未来について、今後ソフト面が充実したうえでどんどん電子書籍が広まった場合に、出版社の意義というか、今後大事になってくる役割というのはどんなところだと思われますか。
城繁幸氏: 編集力は従来でもありましたけれど、編集力というのがまず1つですよね。もう1つはトータルなプロモート力だと思います。これはもう、活字以外にもアーティストみんなそうだと思うんだけど、トータルでのプロデュースをしないとダメな時代になると思っていて。
――やはり普段本を書かれるときというのは、(出版社と)一緒に作られてますか。
城繁幸氏: そのあたりは、人によるんでしょうけど。一緒に作る人、9割作ってもらう人もいるわけで、だけどそういう人向けにはもちろん編集力って大事だと思うんですよね。私のは、ほとんど全部書き上げて持ち込むタイプなのでいらないんですけど、ただやっぱりある程度のプロモートというかマネージメントは必要ですよね。出版社がいないとすると、自分で広告を出さなくちゃいけないし、交渉も全部やらなければいけないし、あと、窓口ですよね。いろんな取材が来るときの窓口になってくれる。つまりマネージメント的な役割というのが、これまで以上に重要になるというような気はしていますよね。
――1冊執筆するのにかかる時間はどれくらいですか。
城繁幸氏: それは、忙しいかどうかで決まるので、わからないですね(笑)。一般的に期間がどれくらいかかるかというと、大体私は半年くらいです。
――2006年の『若者はなぜ3年で辞めるのか?』も半年くらいですか。
城繁幸氏: あれはもっと早かったですね。4か月で書いて、あれ出すの苦労して、そこから4か月くらい転々としていたんですよね。構想は最初に考えて、それを含めて4か月ですね。
――電子書籍化されて、一般読者として何か変わることはありますか。
城繁幸氏: 読むという行為自体は変わらないと思うのだけれど、電子書籍が底上げになればいいなとは思っていますね。今情報収集という中で、活字から読むということがかなり弱くなっているんですよね。確かにネットも見てるし、いろんなまとめサイトなんかや、twitterを見たり、ブログを読んだりというのもひとつの情報収集だとは思うんだけども、チラチラ流れるものを見ているだけであって、じぃっと見るというものではないので、非常に質が低い。活字がネットに移る中で、そこを埋めるメディアが今のところなくて、情報の質というのが相対的に地盤沈下している気がするんですよね。それを、電子書籍が『いやそうじゃない。電子でもこういうふうにちゃんと体系的に吸収できますよ。』っていう架け橋になるのではないかな?というような気はしていますけどね。
――最後に、人生の転機になった本お伺いしたいと思います。
城繁幸氏: イギリスのコリン・ウィルソンの「アウトサイダー」という本。たぶん今、絶版になっていると思うんですけども。内容は一言でいうのは難しいですけど(笑)。日常生活の中で味わえない充足感というものを非日常の中で味わう人たちの話ですよね。これは本の中では『アウトサイダー』と言ってるんだけども、実はクリエイターとして一番必要なものなんだ、と。それは社会不適応ではないし、こらえ性がないわけでもなくて、それ自体が一つの自由な才能だとわかる。そんな内容ですよね。
――電子書籍のメリットとしては絶版がなくなるというのもありますね。
城繁幸氏: それは大きいですね。結構そのへんも期待しているんですよね。Amazonで高いお金出して買わなくてもいいから。
(聞き手:沖中幸太郎)
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