山内志朗

Profile

1957年生まれ。東京大学人文科学研究科博士課程単位取得。新潟大学人文学部教授などを経て、現職。主な研究テーマは、中世後期から近世初頭にかけての形而上学と倫理学。 著書に『「誤読」の哲学 ドゥルーズ、フーコーから中世哲学へ』(青土社)、『存在の一義性を求めて―ドゥンス・スコトゥスと13世紀の〈知〉の革命』(岩波書店)、『普遍論争 近代の源流としての』(平凡社)、『笑いと哲学の微妙な関係―25のコメディーと古典朗読つき哲学饗宴(つまみぐい)』(哲学書房)など。

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現代の問題を解く新しい価値観を生み出す



慶應義塾大学文学部教授、慶応義塾女子高等学校校長を務める哲学者の山内志朗さん。大学のみならず、民間の講座や講演などでも研究の成果を発信されています。「哲学には世の中の可能性を広げる価値と、役割がある」と言う山内先生の、歩みと思いを伺ってきました。

21世紀における女性の“社会進出”


――様々なお立場で哲学研究の成果を発揮されています。


山内志朗氏: 慶應義塾大学では文学部に所属しており週に5コマの講義を受け持っています。こちらの慶応義塾女子高等学校では、去年(2014年)の10月に校長に任命され、女子教育に携わることになりました。

私の研究対象の時代背景である中世西欧でも、女性たちが集団で権力を持ち、新たな思想を作りあげ、市民階級の中で経済的に自立して、貴族階級や教会支配に反発する、「社会進出」の流れが起こりましたが、今新たに起こっているのは、従来の「男性のようになる」ことが同等とする考えから、C.ギリガンが「ケアの倫理」で注目したような「女性のあるべき姿、別のあり方」を出そうとする流れです。

夫婦関係でも、お互いの差として残したフィフティフィフティの関係をどう形成するか。差を残したもの同士が、両方を活かしつつ、生きようという道です。両者がイコールではない、差があるまま、その個性、特性を生かす方法は色々あります。ですから、女性教育に関しても「男性のようになる」ということではなく、そうした差を残したまま、個性、特性を活かすという立場、差として認めていくような倫理が、今、求められていると思います。

本学の場合は、女の子だからおしとやかであるとか、女子高生らしいという感じではありません。おしとやか路線ではなく、文武両道で元気、という感じですね。卒業生も向井千秋さんや勝間和代さんなど、男性を立てるというよりは、むしろ自分でリードしていくような、バイタリティーのあるタイプが多いように思います。

「幸せとは何か」過疎の山村で


――山内先生の哲学思想は、どのようにして育まれたのでしょう。


山内志朗氏: 私は山形県にある、月山という山のふもとで生まれました。出羽三山の修験道が盛んな地域で、私の三代前の先祖も山伏でした。真言宗の寺院が明治維新の際に焼き討ちにあい、廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)によって小さな神社になってしまいました。私はそこの跡地に建った小学校に通っていました。学校の裏には歴代住職のお墓がありましたね。

江戸時代には一夏で二、三万人の参拝者が訪れ、千両箱が二つ三つくらい儲かる比較的裕福なまちでしたが、明治になってこれといった産業がなくなりました。昭和20年代にあった炭焼きの産業も、30年代には中国産の炭が輸入され始め、廃業に追い込まれるなど、歴史の中で翻弄されたまちでした。まちでは職を求めて東京に出たり、石炭採掘の出稼ぎにいく人が多く、次第に過疎地となってしまいました。

私の通っていた小学校も、1学年に6人しかおらず、学友と遊ぼうにも、それぞれ離れた場所に住んでいたので容易ではありませんでした。それで、家ではもっぱら百科事典を読むことが習慣となっていました。特に化学の項目が好きで、元素記号などをよく書き写していました。

――哲学、倫理学に、興味を持つようになったのは。


山内志朗氏: 私は、中学生のころから「幸せとは何か」ということを考えているような、ちょっと変な子どもでした。2年生になって、ラジオでキリスト教関係の放送を聴いたことが、この世界に興味を持つきっかけだったと思います。そこから、聖書を買って読み始めたのですが、日本の神様とも仏教とも違う世界に、ますます興味を覚えました。同時期に読んだ、キェルケゴールやニーチェの本からも、西欧、キリスト教の思想に興味を増すきっかけを得ることができました。

著書一覧『 山内志朗

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