電子デバイスは「簡単」すぎるものではなく、子どもたちが試行錯誤したいと思うものを
東京大学理学部物理学科卒業後、ボストン コンサルティング グループ(BCG)、アクセンチュアで19年半、経営コンサルタントとして働いたのち、2006年からは特に子どもたちを対象にした教育活動をはじめ、現在は大学教授、著述家、講義・講演者として活躍される三谷宏治さん。三谷さんに、子ども時代の読書について、また電子とのかかわり方についてお話を伺いました。
大学教授は世をしのぶ仮の姿
――今、K.I.T.金沢工業大学の虎ノ門キャンパスの主任教授、グロービス経済学院客員教授、早稲田の客員教授と、各種NPO法人の理事など、さまざまな活動をされていらっしゃると思いますが、最近の近況について、お仕事内容も交えて伺えますか?
三谷宏治氏: 私はそういう外向けの肩書みたいなものをいくつか持っているんですが、特に大学教授や客員教授のような肩書は、私にとっては「世をしのぶ仮の姿」みたいなものですね。20年近く経営コンサルタントをやったあと、2006年に教育の世界に専念することにしました。もともと社内研修も含めて「教える」ことについては十数年やっていたんですが、教育、特に子ども向けの教育に注力したいと考えました。でも、組織にはずいぶんと長くいたので、個人でどこまでできるかやってみようとも。ただ、あまりにも肩書が何にもないと、みんな「何者?」って思うので、大学教授ならどうかなと(笑)。社会人向けに教えながら、だけどメインは子どもたちや親、教員向けの授業や講演・研修や執筆なんです。私が教える対象は、経営者から子どもまでなんですけれど、例えば、経営学をビジネススクールで教えているとします。でも、その経営学にしても、単に知識ではなくて「考え方」が重要だ、というのが私の講義です。
――思考法でしょうか?
三谷宏治氏: そうですね。基本的には思考法ではあるわけです。大抵の知識なんて、本を読めば手に入る。私が本当に伝えたいことは、知識をどう使うかということや、どう得るかということ。そういう姿勢や方法なんです。それって「技」なんですよね。技は繰り返しやらないと習得できないので、そういう訓練をしようと。特に、意思決定の練習や、発想の練習は、大人になるほど頭がかたかったりするし、日本の教育では家庭も含めて教わることがない。だから、意思決定の演習なんかは、経営者がやっても、ビジネススクールの学生がやっても、子どもがやっても、点数はあまり変わらない。だから実は、私が教えるネタ自体は対象が大人でも子どもでもほとんど変わらないんです(笑)。同じところでみんなが引っ掛かるし、うまくできないんですよ。
――共通のテストみたいなものがあって、大人も子どもも点数が同じくらいなんですか?
三谷宏治氏: そうです。特に発想系の問題なんて、大人になればなるほど、強い常識にとらわれてしまって引っ掛かるんです。自分は人よりは発想力がある、なんて人は私の発想力研修を受けると「こんなに自分の頭が固かったとは・・・」、と相当落ち込むみたいです(笑)
入院がきっかけで、浴びるように本を読みはじめた
――幼少期のころから読書体験も交えてお伺いしたいんですが、小学校の入学直後に、入院された時に100冊読破されたとか。
三谷宏治氏: ちょっと珍しい骨の病気で、いきなり小学校の入学式直後に40日間入院をすることになりました。特に最初の1週間ぐらいは1日中ベッドの上にいなくてはなりませんでした。それで、先生方がお見舞いに来てくださって、差し入れに本をくださったんです。いっぱい。体は元気なんです。動けなかったというのではなく、足に負担をかけちゃいけない、歩いちゃいけないということで、しょうがないからもらった本を読んでいたんですけど、それで結局どんどん本を読んじゃうから、追加を先生方に持って来ていただいて、最終的に40日間で100冊。1日2冊半くらい読んでいたわけですね。小学校に入った直後なのに、なぜ本が読めたのかがよくわからなくて、先日母親にも聞いたんですが、「よくわからない」って(笑)。たぶん、2歳上の姉にくっついて、なにやらやっているうちに、自然に読み方を覚えちゃったと思うんですよね。本当に本が好きで、小学校4年の時に1週間で30冊以上読んだことがあるんです。たぶんそれが人生の中で最高記録です(笑)。全部学校の図書室の本なんですけれど何をしていたかというと、朝図書室へ行って借りて、午前中の授業の間に1冊、2冊読んで。
――授業の間にですか?
三谷宏治氏: そう(笑)。昼休みに行ってまた借り直して、午後の授業でまた読んで、帰る時にまた借り直して家で読んで、という風なことをやると、1日に4~5冊ずつぐらい読めるので、1週間で40冊。
成績がよくても、本が読めても「リアル」なコミュニケーションが一番だった中学時代
――クラスメートから、「すごいね」とか、いわれましたか?
三谷宏治氏: いや、別にという感じ(笑)。本当に田舎の学校だったので、本を読むことが偉いことでもないし、やっぱり一番偉いのはリーダーシップのあるヤツ、つまりお山の大将が一番偉いわけですよ。中学校もやっぱり田舎の普通中学校なので、1番偉いのは、当時スポーツ万能、生徒会長でイケメン長身という、バスケットボール部のエースでした。彼はその上成績もよかったですけれど(笑)。そういうスーパーマンがいて、彼を頂点にして、私は階層でいうと、3階層目か4階層目でしたね。お山の大将もいれば、野球部のエースもいればという中にいたから、価値観がそんなにゆがまずに済んだのかなとも思いますよね。別に本が読めることが偉いことでもないし、知識がただあることが偉いことでもない。特に実家は八百屋だったので、「お手伝い至上主義」でした。子どもも、お店の手伝いや家事の手伝いをやることこそがすべてで、勉強しろなんて一言も言われない。机上の勉強なんかより「リアルな体験こそが一番」だという価値観がしっかり出来たのが、逆に本好きとしてはよかったかもしれません。やはりリアルなコミュニケーション、経験みたいなことが大事。だからこそ、本を通じての想像力がもっと伸びるのです。
著書一覧『 三谷宏治 』