船曳建夫

Profile

1948年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科卒。ケンブリッジ大学大学院社会人類学博士課程にてPh. D. 取得。現在、東京大学大学院総合文化研究科教授。フィールドワークを、メラネシア、ポリネシア、日本、東アジアで行なう。専門の関心は、現代における「人間」の概念、人間の自然性と文化性、儀礼と演劇の表現と仕組み、近代化の過程で起こる文化と社会の変化。編著書に、『知の技法』(東京大学出版会)、『新たな人間の発見』(岩波 書店)、『二世論』(新潮社)、『「日本人論」再考』(NHK出版)、などがある。

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電子化された生の資源が多様性を生む



東京大学教養学部教養学科卒業、ケンブリッジ大学大学院社会人類学博士課程修了。その後東京大学大学院総合文化研究科教授を務め、現在、東京大学名誉教授。文化人類学者としてフィールドワークをメラネシア、日本、東アジアで行った船曳建夫さんに、読書について、電子書籍の未来についてお話を伺いました。

大学を辞めて『永遠の夏休み』に入ったけれど超多忙な毎日


――早速ですが、船曳さんの近況を教えていただいてよろしいですか?


船曳建夫氏: 3月に東京大学を退職したのですが、去年はそれに向けて、本の執筆に忙しかったですね。退職した後も、30年も務めていましたから積み残しの仕事というのがあるわけで、それをやりながら久しぶりに長い休暇だという感じで、旅行の予定を入れたり、遊びのゼミのようなものをやったりして、仕事以外の事でかなりこの半年くらいは忙しくしていました。大学を辞めて、退職した後、朝起きておもわず会社の方に行っちゃうとかそういう人がいますけど、僕は全く逆だった。本当に思い出さないというか、2ヶ月ぐらいたった時に秘書と、「何だか僕は2年ぐらい経った気がするんだけど」って言ったら、彼女も「私も1年ぐらい経った気がします」と言っていた。感覚的にはもの凄く昔ですね。辞めたら色々な事ができると思って予定を入れすぎて、今むちゃくちゃに忙しい。生産的ではないんだけど、何しろ忙しくて、時間の使い方がまだ良く分からない。自由業の方は自分でペースを作るんでしょうが、偉いなぁと思って。それがまだ身に付いていないので、思いがけず洪水状態なんです。

――忙しい日々を送っていらっしゃるんですね。


船曳建夫氏: 遊びというのは時間がかかりますし、予定を立てたりなんかしてますね。沢山有益な仕事をして忙しいというよりは、ただ何か忙しい。例えば一昨日まで石巻でボランティア活動をしている僕の学生を2泊3日で訪ねていたんです。その前は別の学生の縁で瀬戸内の方に2泊3日でゼミ旅行。小学校に入ってからずっともう60年近く「学校」と縁が切れなかったので、そのペースで動いていたのが、「永遠に夏休み」の状態に入って(笑)。昔、夏休みに全く宿題をやらないで遊んでいた頃と一緒で、好き勝手やっているうちに信じられないほどの忙しさになってしまって、今急ブレーキをかけて、何でもかんでも断るという体制に移っている感覚ですね。

――研究生活、学者生活に入られるきっかけは何だったのですか?


船曳建夫氏: 私が高校生の頃、朝日新聞の夕刊で連載されていた本多勝一さんの『ニューギニア高地人』(朝日文庫)、これは後に本になったんですが、それを読んで自分たちの暮らしとは全く違った社会や文化を見てみたい、体験してみたいと思ったのが、文化人類学に進む重要なきっかけになりました。

シェイクスピアを読もうとして読めなかった子ども時代


――最初の読書体験は、どのようなものだったのでしょう?


船曳建夫氏: そうですね。ごく普通に手塚治虫の『ぼくの孫悟空』(秋田文庫)という漫画が好きでした。後は、小学校1年の夏に、シェイクスピアの『真夏の夜の夢』を放送劇でやっていたんです。それを母とラジオで聞いていて、次の日に父が持っている坪内逍遥翻訳のシェイクスピアの本があったので、読み始めてみたら、読めないという事が分かった(笑)。小さい頃の読書体験として、最初の頃の記憶で思い出すのはそれですね。本当に本を読んで面白いと思ったのは、古典的ですが、『クオレ』(講談社)という児童文学を小学校の時に読んだときですね。貸本屋さんも好きでしたね。千歳船橋の駅前にあったんですが、そこで講談を借りてくるのが好きだった。小学3年生ぐらいの時でしょうか。難しい文字にはふり仮名がふってありました。水木しげるの『ゲゲゲの鬼太郎』もあって、墓場が出てきたりするので、今でこそ国民的漫画家になっちゃっているけど、あの頃小学校では禁書になっていたんですよ(笑)。時代は変わったと思いますね。
小学校2年の時まだ日本が貧しい頃に、クラスで先生が「学級図書を買う」と言って、小田急電鉄の経堂駅に「キリン堂」っていう本屋があったのですが、そこにみんなで本を買いに行った。それで僕は図書委員みたいな役だったので、本を選ぶ事になって、なぜか、村に象がやってきた話を選んだ。タイか何処かの村に象がやってきて、色々森とか切り開くのにすごく役立ちます、みたいな話でしたね。それともう1冊買ったんだけど、そちらのタイトルは覚えてなくて。それを子どもながらに一応選んだ。

――素敵な思い出ですね。


船曳建夫氏: みんなに「5円家からもらって来てください」とか言ったんだと思いますよ。それから余っている本があったら持ってきてくださいと言って、それで教室に並べていたんですね。

執筆は自宅で、ライフワークは教え子OBとのゼミや読書会


――今現在、執筆される場所や仕事場はご自宅が中心でしょうか?


船曳建夫氏: 下に書斎がありまして、そこで書いています。後は色々な雑務みたいな事は事務所を使います。それからゼミを30年近くやっていまして、老若男女あわせて、母集団は300人ぐらいなんですが、その元学生たちと読書会やゼミを行うということもあって、歌舞伎座近くに借りた小さな事務所で集まっています。

――長い間ゼミの教え子の方と、つながりというのはあるんですね。


船曳建夫氏: 僕の場合はちょっと特殊だと思いますけれども、メーリングリストもありますし、連絡も密ですね。昔の大学の同僚に、「船曳さんのゼミはライフワークだね」と、からかわれましたね。内容的にもライフワークだと思っています。

蔵書は11000冊→8000冊。それでもまだまだ少ない方だと思う


――書斎はどのようになっているのでしょうか?


船曳建夫氏: ご覧になりますか?辞めたら片づけようと思っていたんですが、なかなかそうはいかない(笑)

――失礼します。




船曳建夫氏: 家が建って以来、もう十何年も経つのに、この書斎を今だに片づけていない(笑)当初11000冊ぐらいだったんですが、3000冊ぐらい捨てました。英語の本は全部事務所の方に置いてあります。全部あわせて8000冊~9000冊ぐらい。本を沢山持っている人で、もの凄い蔵書家は20000冊ぐらいですね。それ以上だと司馬遼太郎さんや井上ひさしさんとか、本を整理する人も雇えるような人になってくる。そういった方は蔵書が10万冊ぐらいですよね。もうそれは超大人買いするわけですよ。本屋に、例えば黒船関係の本を500冊集めろとか言って、500冊ボーンと買う。別に全部は読まないけど資料として書棚に並べておくんでしょうね。想像でしゃべっているんだけど(笑)。

――(笑)まさしく大人買いですね。


船曳建夫氏: そうですね。僕の先生に民族学者の大林先生という方がいらっしゃるんですが、その方は猛烈に本を読む方で、もの凄い数の蔵書を持っていらっしゃったけど、その方で2万冊だったな。僕は普通の収入で普通に買って、それで自分で書棚に保管して読んだ場合、人間にとって2万冊という数字が限界だなと勝手に思っている。僕自身の本は雑誌を含めて11000冊まで増えていたんですが、雑誌はまとめて学生にあげちゃったんです、それでちょっとスリムにして8000冊。これで何処に何があるかだいたい分かりますね。本を持っている人って、もっともっと持っていますよ。廊下全部が埋まっていたり、奥さんに嫌がられたり(笑)。僕はさほど本に愛着ないし(笑)。でも30年も40年も本を買い続けると、そんな事になりますよね。1年に200冊買っていれば8000冊でしょ、40年間。年間で200冊ぐらいは買ったりしますね。

――本を買われる時は、どういった買い方をされるんですか?


船曳建夫氏: 今はですね…楽しみの本は旅行に行く前に文庫本を買いますよ。今は大沢在昌の『新宿鮫』シリーズを、マイブームでずっと読んでいたんですが、それは本屋で買う。でも後はやっぱりネットが多いですね。

――だいたい、月に何冊ぐらい購入されますか?


船曳建夫氏: 月に15冊とか20冊とか、それぐらい。だから年間200~300冊かな…。僕の外国の知り合いで、ちいさな体育館ぐらいの家を造って、そこに全部本が並んでいる方もいます。よく体育館の2階の所でぐるりと回れる所があるじゃない?そういう風になっていて、上の方の本も取れるようになっている。この部屋の4倍ぐらいの大きさで上3mぐらいまで全部本棚ね。たぶんあの人で2万冊ぐらいですね。その方は歴史家だからいっぱい本を持っているんです。

著書一覧『 船曳建夫

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